本屋は燃えているか

ブックストアの定点観測

バカというレッテルを貼られないようにするには

反知性主義とは「バカモノ」のことなのか?

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を読み終わってため息をついてしまいました。

 

ふつう放送(番組制作の現場)から経営トップの素顔が見える機会はほとんどありません。現場の企画は採択されるまで間に、制作側と番組の編成を行う側で議論や淘汰が行われます。経営が現場に対して直接口を挟むことはきわめてまれです。

したがって放送(番組)の制作者は、放送法に則り公共の福祉のために、あまねく豊かで良い放送番組をつくることに専念できます。*1

この本で明らかにされた経営の事情を読む限り、どうやらトップの考え方はそうではないらしいのです。

「右を向けと言われたら左を向くわけにはいかない」という発言は放送法にそぐわないものの見方だと言わざるを得ません。本書では公共の福祉に反する考え方を「反知性主義」として批判しています。ですから、制作者だけでなく放送局員全体の関心も集めているのでしょう。

反知性主義」という言葉に警戒心を抱きます。

反知性主義は最近よく聞く言葉です。日本では論敵を貶める用語として使われる傾向が強い言葉です。しかし、この言葉は本来、知性の有無によって人間の価値は変わらないという「反インテリ主義」のことを意味しているようです。

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  • 反知性主義: アメリカが生んだ「熱病」の正体」森本あんり 著(新潮選書)

知性が権力と結びつくことを問題視するアメリカ社会の事情を指摘したこの本は、知的な相手に盲従するのではなく、自ら学んで道を切り開くには知性を身につける必要があると述べています。この考え*2放送法に書かれた「公共の福祉」を見つめ直す上で示唆に富んでいると思います。

 

反知性主義を克服する特効薬

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昨年は「反知性主義」ブームに乗って様々な本が出版されました。

「ある種の人々に『反知性主義者』というレッテルを貼ってことを済ませてしまうのはたやすい。けれどもそのこと自体が典型的な判断停止であり、まさに反知性的な身振りであることを心がけておく程度の感性は最低限持ち合わせておくべきだろう。」*3日本を代表する知識人が励ましの言葉を込めて読者に届けるガイドブックです。各界の碩学の薦める本は一度は目を通したいものばかりです。

 

 

*1:放送法に「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保すること」とあります。

*2:佐藤優氏によると、最近巷で使われている「反知性主義」とは、リチャ-ド・ホ-フスタッターの「アメリカの反知性主義』(みすず書房)のような「ある時代の米国における反知性主義」ではなく、「実証性や客観性を軽視もしくは無視して、自分が欲するように世界を理解する態度」のことを指すのだそうです。「アンチ・インテレクチュアリズム」は米国でも、ロシアでも、ドイツでも、常識的に使われていると知って、改めて言葉には注意すべきだと感じました。ところで、最近の風潮は一人の力で克服することはできません。ではどうするか。「過去にさまざまな人たちが切り開いてきた知的営為から反知性主義とは異なる世界を学ぶことで対抗することはできます。そのために最も効率的な手段が読書なのです。」読書家の姿勢に学ぶところは大きいと痛感します。

*3:反知性主義」に陥らないための必読書70冊」石井洋二郎P23