本屋は燃えているか

ブックストアの定点観測

新刊書は書店で買いたい

村上春樹さんのエッセー「職業としての小説家」が、普通とは違う方法で販売されました。

村上春樹『職業としての小説家』(スイッチ・ハ゜フ゛リッシンク゛刊)初刷9万冊を買切、全国の書店で発売 - 共同通信PRワイヤー企業リリース - 朝日新聞デジタル&M

紀伊國屋書店が初版の9割を買い取るという異例の方法でした。

アマゾンなどのネット通販に対抗するのが理由とばかり思っていましたが、どうやらそう単純な理由でもないようです。

 版元スイッチ・パブリッシングの社長新井敏記さんのインタビューが1月20日の朝日新聞に掲載されました。それを読んで本の流通の複雑さが少しわかりました。

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業界内の利益分配は読者に直接関係のない話かもしれませんが、街の小さな書店に本が届かないことはよくある話なのだそうです。

書店員の話では、書店に配本される数を決めるのはふつう取次です。取次は書店の販売データにもとづいて配本する本の種類や部数を決めます。ですから、出版部数が少なかったり、大手書店チェーンなどが大量に仕入れたりすると街の小さな書店には希望する数が届かないことがよくあるのだと聞きました。

流通の仕組みは書店側だけでなく、出版社側も縛っているのだというのがこのインタビューの内容です。出版社が取次に卸す際、出版社の取り分となる「正味」*1という仕組みがあります。さらに中小出版社は「配本手数料」という名目で「歩戻し」というものを返本される本も対象にして取られるのだといいます。

この仕組みの是非はともかく、書店で読みたい本が買えないという事態は困ったことだと思わざるを得ません。

インタビューの写真に「10代の頃、小さな書店の主に『この本を読んでおけ』とよく教わりました」というコメントが添えられていました。

本は商品であると共にメッセージの象徴なのです。

*1:書籍の本体価格に対する掛け率のこと。出版社の規模や歴史によって掛け率は異なる。大手や老舗は条件が良く、中小や新興は不利だと言われてきた。