本屋は燃えているか

ブックストアの定点観測

ネット時代の書籍の行方

 成長を続ける文芸書のジャンル

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「ウェブ小説の衝撃」というタイトルに引かれて読みました。書籍の売り上げが減り続ける中、電子書籍を中心としたWEVコンテンツがどのように読者に受け入れられていくのでしょうか。読み進めるうちに、これは媒体の話ではなく、出版というビジネスが迫られる構造改革の話であることがわかってきました。

あらゆる出版物が売れなくなっている中、唯一好調な分野が「ウェブ小説」なのだそうです。「ウェブ小説」とは、オンライン小説、ウェブ小説(web小説)、インターネット小説、オンラインノベルなどと呼ばれることでわかるように、定義がまだ定まらない若い分野の出版(?)形式です。

本書によれば、すでに日本の文芸作品の売り上げの半分近くが、インターネット上で公開された作品を書籍化したウェブ小説が占めるログイン前の続きようになったという。旧来の小説に親しんでいる方は驚くかもしれないが、確かにライトノベルでは近年、ウェブ小説が旧来の新人賞に代わる勢いで、新たな人気作、人気作家の供給源となっている。一般文芸で40万部を突破した住野よる『君の膵臓(すいぞう)をたべたい』(双葉社・1512円)も、もともとはネットに掲載された作品だ。ウェブ小説が日本の小説市場の中枢を占めている、という言葉は、けっして大げさなものではないと思える。こうした流れを受け、2月には株式会社KADOKAWAも株式会社はてなと共同で小説投稿サイト「カクヨム」をスタートさせた。

著者は「なろう」と呼ばれる小説投稿サイトを例に取り、構造改革の必然性を解き明かして行きます。

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投稿サイトは見るとわかるように、書き手がインターネット上に作品を公開し、読者がスマホやパソコンの画面で読むというものです。基本的に購読料はタダ。ここには、従来の出版物のように編集者が作家を育て、週刊誌などの連載で評判を集め、単行本で収益を上げるというビジネススキームは存在しません。

また、従来の紙の印刷物として完成した作品を電子化し、WEV経由で提供する「電子書籍」とはまったく違うものです。なぜなら、電子小説はインターネット上にあるという特性を活かして、随時書き換えることが可能です。また、ページの制限がないため、無理矢理起承転結をつける必要もありません。延々イントロの部分を語り続けることもできるのです。

サイトを見ると掲載数は40万点近くに達しています。当然内容や質も玉石混淆です。しかし、紙の出版物のように編集者が介在しないことから、読者の評価がストレートに作品の評価につながることになります。

筆者は、新人賞を取りながら単行本化されない本を引用しながら、既存の出版業界の仕組みを批判します。出版業界の人にとっては大変な時代が来ていることがわかります。

ではなぜ、版元はそうした書き手の原稿を本にしないのか。話は簡単で売れる見込みが立たないからだ。ではなぜ売れる見込みが立たないのか。それは「雑誌の影響力が低下しているからだ」と著者は鋭く指摘する。小説の雑誌が数千部から多くて一万部であることに触れた上で、著者はばっさりと切り捨てる。

本書はある層に通じる用語や独特の文体で綴られていることから、読みやすいものではありませんでした。しかし、ウェブ小説に親しむ世代はいずれ大きな潮流になると予感させられる内容でした。 

この本で語られていることは、どこまでも「ウェブ小説ビジネス論」でしかないわけで、「ウェブ小説文化論」とでもいうべき本が必要だと感じます。そうじゃないと、いくら「こんなに売れている」、「こんなにウケている」といわれたところで、もうひとつ納得できないのですね。どんなに売れていても、ウケていても、くだらないものはくだらないとしか思えないわけですから。

 飯田一史プロフィール

1982年生まれ。ライター、編集者。コンテンツビジネスに関するジャーナリスティックな活動から創作理論の講義まで、文芸とサブカルチャーを中心に活動を展開している。著書に『ベストセラー・ライトノベルのしくみ』(青土社)、共著に『21世紀探偵小説』(南雲堂)などがある。

 

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