本屋は燃えているか

ブックストアの定点観測

シンプルな絵が想像力をかき立てる「映画愛」の本

印象的な名セリフに感動するのも映画を見る楽しみです。

しかし、なかなかそのシーンが思い出せないこともあります。ちょっとしたきっかけがスクリーンの記憶を呼び覚ますことがあります。あのシーンやセリフをしゃれたイラストと短いコメントで紹介したのが「みんなの映画100選」鍵和田啓介 著、長場雄 イラスト(オークラ出版)です。 f:id:tanazashi:20160609180554j:plain

手に取るとわかるのですが、映画評論というより、絵本のような本です。ページをめくると余白をたっぷりとった紙面にシンプルな線で描かれたイラストが配置されています。反対側のページに主人公たちが語ったセリフがシンボリックに配置され、さりげない解説が並んでいます。

 

そのままページを切り離して額装すれば部屋のインテリアにもなりそうなおしゃれな本です。あまりに存在感があるので気になっていたら、ちょうどトークショーが開催されるということがわかり会場に足を伸ばしてみました。

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会場は二子玉川の蔦谷家電です。著者の長場雄*1氏、鍵和田啓介*2氏に加えアートディレクターの前田晃伸*3氏の三氏が鼎談するという内容です。 

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トークショーの前半は、映画のシーンの上映と本の解説です。上映された映画は「スタンド・バイ・ミー」「バック・トゥ・ザ・フューチャー」「バットマン」「グーニーズ」「ET」など往年のハリウッド映画でした。

 

文章を書いた鍵和田氏が企画立案者だと思っていましたが、実はイラストを描いた長場氏が考えた企画なのだそうです。彼が見た映画の中から印象的なワンシーンをイラスト化して、本にするスタッフを募ったところ鍵和田、前田両氏が参加しました。

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スタンド・バイ・ミー」は長場氏がトルコで暮らしていた頃、学校の先生が長場氏に「この映画のパイ投げのシーンが面白い」といったことがきっかけで見て、そのまま映画にはまってしまった のだそうです。

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ゼメキス監督は映画の作りが古いタイプだということが、「なせばなる」という台詞から感じられるそうです。 

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ETの名場面として知られる指と指を合わせるイメージは本編上にはありません。宣伝用に撮影されたスチールのイメージがいつのまにか固定化されてしまったのだそうです。

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トークショーの楽しみは、本づくりの舞台裏を除くことができることです。企画を立てたのは1年前で昨年のクリスマスに出版する予定だったのがずれ込んだという、出版社側の内情や、白く見せるために白い別の紙で表紙を包み、特殊な糸で綴り込み、インクにもこだわって白黒印刷の中に色彩を取り入れようとしたのだというアートディレクションの苦労話など、普段聞けない話は興味深く聞けました。

司会を務めたTSUTAYA店員が、続編の予定があるのか聞かれると、「邦画はあまり見ていないので」「ホラー映画は見ているが心に残る名台詞は聞いたことがない」(鍵和田)など編集者の嗜好と個性がにじみ出るコメントも聴けました。

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(類推して考えると、この企画の陰の仕掛け人はTSUTAYAで、出版化とレンタルの販促の一石二鳥狙いで立ち上げた企画なのかもしれません・・・)

三人とも80年代に生まれ育った人たちなのでハリウッド映画の影響を大きく受けているようです。世界の映画にもぜひ幅を広げて行くことを期待してます。

みんなの映画100選 [ 長場雄 ]
価格:2700円(税込、送料無料)


 

*1:1976 年東京生まれ。東京造形大学卒業。人物の特徴を捉えたシンプルな線画が持ち味で、広告、書籍、パッケージデザイン、アパレルなど幅広く活動中。2015年に初の作品集『I DRAW』を発表した。主な仕事に、雑誌『POPEYE』表紙イラスト、TOYOTA Line スタンプ、BeamsコラボTシャツなどがある。また、キャラクター「かえる先生」の生みの親としても知られている。

*2:1988 年生まれ、ライター。映画批評家であり、「爆音映画祭」のディレクターである樋口泰人氏に誘われ、大学時代よりライター活動を開始。現在は、『POPEYE』『BRUTUS』などの雑誌を中心に、さまざまな記事を執筆している。

*3:愛知県生まれ。デザインチーム「ILLDOZER」に参加後、アートディレクター/デザイナーとして CI、広告、カタログ、パッケージ、アパレルなど幅広く活動。最近では、雑誌『POPEYE』『TOO MUCH MAGAZINE』などを手掛けている。