本屋は燃えているか

ブックストアの定点観測

文庫本を狙え!がベスト3に急上昇

いまや泣く子も黙る「週刊文春」。週刊文春の読書欄「文春図書館」で1頁分を受け持つ坪内正三さんのコラム「文庫本を狙え」が文庫本になってお目見えしました。

f:id:tanazashi:20161011165327j:plain

 

「文庫本を狙え!」坪内正三 著(筑摩書房)

週刊文春」誌上で20年に及ぶ長期連載をつづける坪内祐三「文庫本を狙え!」。本書はその原型ともいうべきスタートから171回分を収録。古典的名作からサブカル・雑本など、毎月次々と刊行される文庫本のヤマのなかから、おすすめの1冊を毎週選び出す。かつては新刊書評であったものが、20年たつことで絶好の古本案内としても読むことができる。

週刊文春「文春図書館」の名物コーナー(現在909回)を他社が書籍化するのはなぜ?という疑問はさておいて、20年間にわたり毎週一冊の文庫本を取り上げ解説するエネルギーはハンパなものではありません。今年話題になった「こち亀」が40年ですから、もう半分まで来ています。著者の坪内さんは58歳ですからファンの読者はまだまだ楽しめそうです。

f:id:tanazashi:20161011172215j:plain

書評というと、一冊の本を読み通すのも時間と手間がかかりますが、坪内書評の特徴は膨大な引用にあります。引用する本まで目を通していることを考えると気が遠くなります。インターネット上で私たちが目にする情報は爆発的にふくれあがっています。そのためどの本を選んだらいいか迷う読者も増えていると聞きます。そこで頼りになるのがキュレーター*1だと言われています。坪内さんの書評の特徴は、いわば「タグ付け*2」です。記事に興味を持った人に対して、参照先を指し示すという構造が貫かれているところに、利便性を感じる読者がつくのではないかと思います。

しかし、これだけの情報量をいつどこでどのようにして仕込んだのでしょうか気になります? 

1990年の秋まで「東京人」という雑誌の編集者を約3年間やるんだけど、その前後はニート。大学院を出た直後と、30代前半です。そのときに、それこそ時間つぶしに、毎日、早稲田大学図書館に入り浸って、明治、大正、昭和のいままで書かれていない面白い出来事や人物を、古い雑誌などから探していた。

早稲田の図書館は、関東大震災でも空襲でも焼けてないから、震災以前の資料が残っているんです。東大の図書館は関東大震災で燃え尽きちゃったわけだけど。

そもそも明治、大正に興味を持ったのは僕の師匠である山口昌男先生の影響です。先生が当時、明治、大正の文化史の読み直しをされていた。世に出ている史実は、時代の主流ばかりで、そこから外れたインディペンデントでしかも面白い仕事をした人の話って、その人が死んじゃうと消えちゃうんですね。

評論家・作家 坪内祐三さん | プレジデントオンライン | PRESIDENT Online

長期連載の背景には長距離走者にも似た基礎トレーニングがあったことを知りました。 

*1:図書館、公文書館のような資料蓄積型文化施設において、施設の収集する資料に関する鑑定や研究を行い、学術的専門知識をもって業務の管理監督を行う専門職、管理職を指す

*2:ファイルや情報にタグ(tag)と呼ばれる短い単語やフレーズを付けて整理する手法