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本屋は燃えているか

ブックストアの定点観測

大江戸残酷物語

落語を観に行くと大入り満員。一昔前なら、暇をもてあましたような初老の男たちが散見された演芸場も、いまや観客の主役は若い人や女性客が中心だとか。落語ブームがきっかけで江戸の暮らしに興味を持つ人が増えているようです。

古典落語の楽しみは下町長屋の人情を感じるところだね・・・とお喋りしていたら、レジに並んでいた知り合いの放送局員からスッと差し出されたのがこの本です。

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「大江戸残酷物語」氏家幹人 著(洋泉社

島原の乱以後、幕府倒壊寸前まで戦争も内乱もなく、平和を享受していた時代においても、刑場や屋敷の中、そして路上で、合法と違法を問わず、目を覆い耳を塞ぎたくなるような情景が繰り広げられていた。

私たちのご先祖はこんな日常を生きてきたのか・・・

目を覆いたくなるような陰惨な内容が満載されてます。この本を読むと落語の見方が変わってしまうような気がします。しかし、光の部分だけ見ただけでは社会の実相はつかめません。教科書では取り上げられないような部分まで踏み込んで、私たちが今いる暮らしの価値が理解できるように思います。

増補版 大江戸残酷物語 (歴史新書y)

増補版 大江戸残酷物語 (歴史新書y)

 

今の東京の風景から見ると、たかだか150年前の江戸は血なまぐさい社会だったようです。目次を見ただけでかなり強烈な印象を受けます。ディストピアのような江戸に私たちの祖先は暮らしていたのです。 

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人間の本質は変わらない・・・

「血みどろな出来事に特化してまとめているので、書かれた内容が日常茶飯事のように繰り広げられていたわけではない」時代考証を専門にする知り合いは、ショックを和らげようと弁解気味にいいました。たとえて言うなら交通事故のニュースが人殺しのニュースになったようなもの・・・といいますが、それでも多い感じがします。「中東の国々で起きている戦乱の感覚に近いかも知れない」と聞かされても感覚は追いつきませんが、言わんとすることはわかります。

 

現代社会でも同じようなことをしている国は存在するわけです。話し合いではなく暴力で解決を図る事件はなくなりません。人間の考え方や意識は基本変わっていないのです」陰惨な事実の裏にあるものを冷静な目で読むよう奨められました。 

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歴史に学べと聞きます。私たちの先祖が積み上げてきた明るい面を学ぶことも必要ですが、誰も触れたがらない暗黒面に光りを当てることには意味があります。

本書では家臣が後追いする「追腹」や殉死が美徳とされた封建社会の人権感覚。酸鼻を極めた殺傷事件や人胆を薬用にした話など仰天の事実が掘り起こされています。今の暮らしからかけ離れた当時の価値観を知ることが出来ます。こうした血なまぐさい時代から決別し私たちは様々な代償を払いながら今ある社会の安心を獲得してきたわけです。落語を楽しむ限り江戸暮らしに憧れは広がりますが、こんな世界にもどってはならないし、賛美してはならないと強く感じます。