「スペードの3」朝井リョウ 著(講談社)
ミュージカル女優、つかさのファンクラブを束ねる美知代。小学校の同級生の出現によって美知代の立場は危うくなっていく。美知代を脅かす彼女には、ある目的があった。つかさにあこがれを抱く、地味で冴えないむつ美。かつて人気を誇っていたが、最近ではオファーが減る一方のつかさ。それぞれに不満を抱えた三人の人生が交差し、動き出す。私の人生は私だけのもの。直木賞作家朝井リョウが、初めて社会人を主人公に描く野心作!
さり気なく巧みに時系列を変え、ピースを組み合わせるかのようにして場面を鮮やかに印象づける。女たちの屈折した自意識と見栄と欲望が原まりあう予想外の展開も見事だ。
「色いろ花骨牌」黒鉄ヒロシ 著(小学館)
四十数年前、赤坂に「乃なみ」という旅館があった。そこに夜な夜なメンバーが集まり、始まるのは、麻雀、花札、カード。だが中心はあくまでも座談の楽しさにあった。吉行淳之介さん曰く、「ま、気取って言えばサロンのようなものですな」。高名な作家・俳優・芸術家たちの中に、ある日、まだ二十代の青年が加わった。今は亡き、個性溢れる人々との交流を生き生きと描いた超面白エッセイ集。主役は九人。吉行淳之介・阿佐田哲也・尾上辰之助(初代)・芦田伸介・園山俊二・柴田錬三郎・秋山庄太郎・近藤啓太郎・生島治郎、ほかに脇役たちも多士済済。交遊録の名品、初文庫化。
独特の距離のとり方が小説や演技、人生の陰影につながる。包容力豊かなユーモアがいい。
「その犬の歩むところ」ボストン・テラン 著(文藝春秋)
ギヴ。それがその犬の名だ。彼は檻を食い破り、傷だらけで、たったひとり山道を歩いていた。彼はどこから来たのか。何を見てきたのか…。この世界の罪と悲しみに立ち向かった男たち女たちと、そこに静かに寄り添っていた気高い犬の物語。『音もなく少女は』『神は銃弾』の名匠が犬への愛をこめて描く唯一無二の長編小説。
相変わらずテランの文章は指摘で力強く、読む者の心を何度も揺さぶる・必読の傑作。