本屋は燃えているか

ブックストアの定点観測

#山本寛「なぜ、御社は若手が辞めるのか」

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「なぜ、御社は若手が辞めるのか」山本寛*1 著(日本経済新聞出版社

就職氷河期を経験した人が聞いて仰天するのが、売り手市場の時代に就職活動をする若者たちの行動なのだそうです。「他にやりたいことがあるので・・・」「留学します」「家庭の事情で」と退職する人たちの決断に嫉妬と羨望の眼差しが寄せられます。

通勤電車や窮屈な職場のルールに縛られる人生を選ばなくても、実力さえあれば個人でもフリーランスで生活ができる時代です。

旧世代から見ると「わがまま」に見える若い世代の価値観には、学ぶべきところがあるように思います。

 

*1:青山学院大学経営学部教授。1957年神奈川県生まれ。79年早稲田大学政治経済学部卒業、日本債権信用銀行(現あおぞら銀行)、千葉市役所を経て、91年函館大学商学部専任講師。94年千葉商科大学専任講師、97年同大学助教授。2001年青山学院大学経営学助教授就任、03年より現職。

#キズナアイ、届木ウカ、月ノ美兎、赤月ゆに、万楽えね、みゅみゅ、皇牙サキ、広田稔、じーえふ「ユリイカ 2018年7月号 特集=バーチャルYouTuber」

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ユリイカ 2018年7月号 特集=バーチャルYouTuberキズナアイ、届木ウカ、月ノ美兎、赤月ゆに、万楽えね、みゅみゅ、皇牙サキ、広田稔、じーえふ 著(青土社

子どものなりたい職業の一つに「ユーチューバー」という仕事があります。

自分で動画コンテンツを作ってユーチューブ上に公開し、視聴回数に伴う広告料食べていくという職業です。

カメラとパソコンの編集ソフトがあればとりあえず動画ほ編集することができるので、敷居はあまり高くありません。ネット上には自称ユーチューバーといわれる人たちの作品があふれています。

そこに登場したのが、生身の肉体を持たないキャラクターを使った動画作品です。

チャンネル登録者が170万人を超える「キズナアイ」や、チャンネル開設から4ヶ月で60万人の登録者を獲得した「輝夜月(カグヤルナ)」などが登場。

今年の7月にはグリーが動画番組の企画から配信までを行うプロダクション事業に取り組むというニュースも飛び込んできました。(6月末現在株価は反映した動きを見せていません)

jp.techcrunch.com

人体の動きをトレースし、モデリングするためには個人の技と資金では難しく、バーチャルYouTuberを発掘・育成・マネジメントする事業体が必要になるからです。

これから注目される新しいサブカルチャーの動きを見る本といえそうです。

 

#前川喜平「面従腹背」

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面従腹背」前川喜平*1著(毎日新聞出版

一般の人にとって、官僚の仕事。とりわけ国家の中枢で働く人の生の声に触れることは希です。

守秘義務という枷もさることながら、巨大で精密な仕組みをスムーズに回転させていくには個人の感情は不要だからです。

仕込みを回すための全ての可能性に目配りをした文書の作成や根回し、すりあわせなど、最高学府レベルの頭脳に加え人脈、記憶力などをフル稼働させる必要があります。

常人には図りがたいたいへんな半生を乗り切って下野した人の心情をくみ取りながら、国を支える優秀な黒子たちの無念の思いを感じます。

 

*1: 1955年奈良県御所市生まれ。東京大学法学部卒業。1979年、文部省(現・文部科学省)入省。宮城県教育委員会行政課長、ユネスコ常駐代表部一等書記官、文部大臣秘書官などを経て、2012年官房長、2013年初等中等教育局長、2014年文部科学審議官、2016年文部科学事務次官に就任。2017年1月、退官。現在、自主夜間中学のスタッフとして活動。

#貴志謙介「戦後ゼロ年 東京ブラックホール」

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「定めた狙いに向かって、ひたすら深掘りする」。

広く浅くではなく、狭く深くが番組制作の決め手なのだそうです。

「関係者を丹念に当たっていくうちに、最初は点のように見えていた景色が、線になり、面のように見えてくる」と制作者はいいます。

戦後ゼロ年 東京ブラックホール|NHKスペシャル

 

記憶にある限り、昔の風景は「オールウェイズ」などで表現されるノスタルジックでのんびりとしたものではありませんでした。

都市部を走る国電は油光りする床や、所構わず吐き散らされた嘔吐物が名物でした。

駅の改札口はたばこの煙で充満していました。

繁華街は凄みをきかせる男たちや、妙に鮮やかな恰好の女たちがいました。

川崎という土地柄もありますが、学校に行けば麻雀やタバコを口にする商店街のこどもたちがクラスを仕切っていました。

朝鮮中学校との喧嘩で腫れた頬を自慢げに見せびらかしている奴もいました。

体育会系が支配する「あしたのジョー」の冒頭に描かれていた世界観に近い記憶です。

決してあの時代に戻りたいと思いません。

「戦後ゼロ年 東京ブラックホール貴志謙介  著(NHK出版)

#Q.B.B. 、久住昌之「古本屋台」

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「古本屋台」Q.B.B.久住昌之 著、久住卓也 イラスト(集英社

孤独のグルメ」の次に原作者の関心が向かった先は古本屋でした。

ただ、古本屋はものが動かないし、人と人の会話が成立しにくいので映像化がしにくい。

ならばと考えたのでしょう「屋台」。

昨年ヒットしたアニメ「おそまつさん」でもチビ太の屋台が健全でした。

オジサンは屋台に弱いという、習性を熟知した釣り人のような観察眼が爆発します。

マーケットが狭すぎる気はしますが、いずれテレビ化されて深夜の時間帯の話題をさらいそうです。

 

#NHKスペシャル取材班「未解決事件 グリコ・森永事件 捜査員300人の証言」

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「未解決事件 グリコ・森永事件 捜査員300人の証言」NHKスペシャル取材班 著(新潮社)

マスコミは捜査機関ではありません。

証拠を集め、その結果をもとに事件を立証することはできません。捜査する権限も予算もありませんから、事件が起きると「捜査機関の調べによると」と但し書きをつけて報道するしかありません。

しかし、事件の結果を羅列したところで世の中が納得するとは限りません。そこで考えたのが、事件の一次情報を握る人たちに直接取材し、二次情報を集めて回ることです。

集めた情報が正確であるという保証はありませんが、数多くの人たちに取材することで漠然とした輪郭が見えてくることがあります。生々しい現場の様子や、容疑者らしき人物に遭遇した捜査官の直感など、現場の空気を伝えることで、動揺する世間の不安に応えることができるのです。

 

#齋藤利勝「あなたのキャリアをお金に変える! 「顧問」という新しい働き方」

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「あなたのキャリアをお金に変える! 「顧問」という新しい働き方」齋藤利勝 著(集英社

60歳で定年を迎えても、年金が振り込まれる65歳までは5年というブランクがあります。また、65歳で再雇用先を退職した後もそろそろ体がヤバイかなという年齢までかなりの時間がのこそれています。

ひと昔前ならば、退職金を使って海外旅行に行ったり、田舎ぐらしを楽しむなんていうのんきな生活も夢ではありませんでした。しかし、今は違います。

書店に並ぶ「定年」本の多くは、不安を感じる定年世代が読者ターゲットであり、今の世相をあらわす現象でもあるように思います。

ライフプランの立て方、年金や保険、投資信託などのお金の話、膨大な時間の過ごし方・・・会社勤めを終えたサラリーマンにとって初めて知るものばかりです。

しかし、どの本を読んでもあまり詳しく説明されないのが、仕事の見つけ方。

若い世代が手に取るライフハック本が自分にあった具体的な仕事探しに重点が置かれているのに対し、定年世代の仕事探しの方法は誰も語ってくれませんでした。

簡単な仕事ではありませんが「顧問」というキーワードに響く定年世代も多いように思います。