本屋は燃えているか

ブックストアの定点観測

批判は正義の母である

書店員の表情が明るいときは「本が売れている」時か「骨のある本」を仕入れた時のどちらかです。店頭を見ると2冊の本が並んでいます。

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「ゲンダイ・ニッポンの真相」斎藤貴男 著(同時代社)

日刊ゲンダイ」好評連載コラム10年分。「権力欲、支配欲、力への渇望、誇示、差別、蔑視、排除の論理。――権力者たちは、自らの欲望の達成のために巧妙に民主主義を骨抜きにしていこうとする。そうやって、自分が支配しやすい国に作り替えていこうとする。その過程をまざまざと追っているのが本書なのである」寺田俊治(株式会社日刊現代 代表取締役兼編集局長)

 

自衛隊の闇: 護衛艦「たちかぜ」いじめ自殺事件の真実を追って」大島千佳 著(河出書房新社

2004年10月、21歳の海上自衛官・Tさんが自殺した。彼の遺書から、原因は先輩隊員からの悪質ないじめであることは明白だったが、自衛隊側はその事実を否定。さらに自衛隊側は、Tさんが亡くなった直後に隊員190名に実施した、いじめの実態が書かれた直筆のアンケートもすでに破棄したとして、公開を拒否した。

Tさんの両親は「自殺の責任は、暴行・恐喝を犯した先輩隊員Sと、監督責任を果たさなかった自衛隊にある」としてSと自衛隊を相手取って裁判を起こすが、一審判決はいじめ自体は認めたものの、自殺についての自衛隊の責任は認めず、納得のいく判決は出なかった。両親はすぐさま控訴するが、そんな時、ある幹部自衛官=3佐が現れる。彼は、“「破棄した」と自衛隊が主張するアンケートは実は破棄されていない。自衛隊は嘘をついている"と、正々堂々と裁判所に通報したのだ。そして裁判は、世間の大きな注目を集めることになり、思わぬ方向へと動き出すーー。
自衛隊内での深刻ないじめの問題、隠蔽体質に染まってしまった組織の恐ろしさ。3佐の行動は、自衛隊を憎む気持ちから起こされたものではない。むしろ、自衛隊を愛し、誇りを持って国民のために働いてきたからこそ、その正義のために起こされたものだった。

この激動の裁判と、混沌とした自衛隊の闇に光をあてるように「自衛隊の嘘」に立ち向かう3佐を追った、早稲田ジャーナリズム大賞受賞のドキュメンタリー「NNNドキュメント 自衛隊の闇」、その後の取材も敢行し、初の書籍化。

 


 

ダウンタウンの番組で、「体育会系の人たちは「押忍」だけで会話が通じる」という企画がありました。先輩OBが「あれは「押忍」だろう、「押忍」だから「押忍」なんだよ」と言った言葉を後輩が性格に聞き分けたのには驚かされました。

こうした人間関係は話が前向きである間は健康な笑いを呼びますが、等質化した人間関係が極端に走ると排除の論理が働きやすくなるのは周知の事実です。

かつて自衛隊を取材をしたことがあります。戦う集団という宿命を持つが故に、自衛隊の人間関係は「上意下達」が原則です。無機質な集団として見えていた印象が、働く人たちの肉声を自分の耳で聞くことで印象ががらりと変わり、非常に身近な存在に見えたことを思い出しました。組織は人によりなりたっているという単純な視点に立ち戻ることで、ある主の倫理観は養われるのではないかと思います。

組織化することで効率が生まれます。しかし同時に、組織化は等質化も生み、そのことが「内部の常識は社会の非常識」を育てる温床を生みます。「ちょっと変だよ」といえる立場は限られているため、内部の常識に風を通すのは容易ではないことを本は教えてくれます。