本屋は燃えているか

ブックストアの定点観測

読む力を考える・青山ブックセンター

怪しい空模様の中、表参道の青山ブックセンターに行ってきました。東京メトロ表参道駅から下車してもいいのですが、散歩がてら渋谷から246沿いを徒歩で20分程度歩くと、閉鎖された子どもの城が見えてきます。少し寂しい。その先の国連大学ビルの前庭では農産物の直売会が開催中。角を曲がって少し進み、突き当たりの階段を降りるとそこが青山ブックセンターです。

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ブックセンターの奥にはホールがあります。ミドルエイジの女性たちが集まってきます。新刊書の出版記念トークショーなどを精力的に開催するところに、ブックセンターの理念を感じます。 

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絵本作家の五味太郎氏がこれまで発表した作品訳400点(一部未収録の作品もあるらしい)を集めた図録の出版を記念するトークショーです。

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子どもを育てた経験のある人なら、五味さんの作品を知らない人はいないというほどの有名作家です。今年71歳の五味氏の話を聞こうと会場は100人近くの人で満員。しかもそのほとんどは女性です。

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五味氏は、絵本の存在理由き「個人から個人へ届く」ことをあげていました。「読むということはきわめて個人的な試みなので、作者はすべて語りきるのではなく、50%は読み手に任せたい」と言っていました。しかし、読書運動家の中には「コール&レスポンス」を求めたり、「ひとり読みは良くない」という趣旨の考えを持つ人もいるらしく、内容に答えまで求める傾向が強まっていると感じるのだそうです。「読む力」を自分自身どうとらえるか考えさせられました。

 

ブックセンターの特徴は、書籍の宣伝に力が入っていることです。入り口に「100人がこの夏おすすめする1冊2016」という特設コーナーは、各界を代表する知識人がそれぞれ選んだ一冊をコメント付きで展示したものです。

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本と本の隙間に選者のプロフィール付きのカードが並んでいます。

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最新作「アイアム・ア・ヒーロー」で知られる漫画家の花沢健吾氏の旧作「ルサンチマン」の新装版を発見。週刊誌連載時は、ヲタク度があまりに過ぎる上、人気も出ないということから早めに打ち切りになったと噂される作品です。仮想現実の中に居場所を発見する非モテ男子の生き様は涙なしで読めませんでした。

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現代美術家天明屋尚*1氏は、一行のコメントで語っていますが、本書を選んでくれたこと自体が奇跡です。

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技術の進歩が進みAR(拡張現実、つまり、視覚だけでなくそれ以外の感覚も、現実に存在しない電子情報が置き換わって体験できること)が生活の中に入り込み始めています。花沢健吾が先取りした未来をどう受け止めたらいいのでしょう。「読む力」という五味氏のことばが頭の中をよぎりました。

*1:1966年生。南北朝期の婆娑羅、戦国末期の傾奇者といった華美にして反骨精神溢れる覇格な美の系譜をローマ字で「BASARA」と総称し、日本の文化軸と歴史軸を直結させ美術史をダイナミックに改変する独自のコンセプトにより作品を制作している