師走になると古典落語が聴きたくなる。二冊の選び方、並べ方に本屋の策略と趣味がにじみ出ているように感じられます。
放送局と噺家さんとのつきあいは長いものがあります。昨今の落語人気(ブーム)で、都内の席亭は活況を呈しています。真打ち級の独演会ともなると、流行歌手の舞台公演(ライブ)を凌ぐ注目度で、座席券は当たりくじ(プラチナペーパーともいう)ほどの価値があるそうです。当店に噺家さんが立ち寄ってくれますが、一度に数冊購入していただくことから、よく本を読まれる印象があります。この書店の一角にも落語コーナーが常設されていますが、そこから表通りに飛び出したのがこの2冊です。
「芸人だろうが、芸術家だろうが、タレントでもかまわない。「立川談志」であるのだからそれでいい」。2011年11月の死没から5年、落語界の中興の祖、立川流家元七代目談志が語録で再び降臨。高座で学んだ人生の金言、厳しくも愛情溢れる弟子育ての名言、世相を家元流にぶった切る放言など、談志が放った珠玉の言葉を厳選しました。
貴重な未公開写真とともに、味わい深い談志節で綴る、人生に効く言葉が詰まった一冊です。監修 吉川 潮
タイトルを調べてみると「談志の遺言」は講談社から「立川談志遺言大全集」 というフルセットがすでに出ていたりします。
そして、その右側に並ぶのが
「夢になるといけねぇ」橘蓮二 著(河出書房新社)
人気落語家の孤独と覚悟、師匠を慕う弟子の想い、ライバル同士のせめぎあい―写真家・橘蓮二だけがとらえることができた、芸人たちの姿と言葉を、写真と文章で描き切る。見逃すな、これが現代落語・演芸界の最前線だ。
橘蓮二*1氏といえば「カメラを持った前座さん」*2で知られる落語の分野で活躍する人物写真家です。ツイッターを見ていると高座の高揚感が伝わってくるような気がします。
対談も面白い。
落語家に密着して写真を撮り続ける写真家。漫画家の創作風景が「慢勉」というドキュメンタリーシリーズになったように、写真家によりそって落語家の創作風景をテレビ化する企画があったら是非見たくなります。
さてタイトルの「夢になるといけねぇ」。大晦日にはこの噺が聴きたくなる人情噺「芝浜」のサゲです。大晦日の帰り道、大金の入った財布を拾い大酒を飲んで酔いつぶれる魚屋の亭主に、「その金はなかった」と嘘をつく女房。その後改心して真人間になった亭主が女房に頭を下げて感謝する場面の名セリフです。談志師匠の芝浜と並べて配架するところに書店員の深い配慮を感じます。
*1:1961年生まれ。1986年より写真家として活動。現在、人物、落語演芸写真を中心に雑誌等で活躍中。著書に『高座のそでから』(ちくま文庫)、『当世人気噺家写真集 高座の七人』『茂山逸平写真集 狂言の自由』『増補版おあとがよろしいようで??東京寄席往来』『落語十一夜』(ともに講談社)、『狂言日和茂山狂言の世界』(ぴあ)、『笑現の自由??TOKYO芸人気質』『寄席・芸人・四季』(ともに白夜書房)、『京都の狂言師 茂山家の人びと』(淡交社)、『いろものさん』『高座』『橘R二写真集 噺家』(全五巻)(河出書房新社)など
*2:上野鈴本の楽屋で撮影を始めて十八年。信頼を得た撮影者だけが見ることができた演者の個性を興味深いエピソードと最新の写真を収録する写文集