「もっと知りたいベラスケス」大高保二郎 著、 川瀬佑介 著
美術番組の担当者だからといって美術の研究家であるとは限りません。
視聴者にとって発見や感動といった気づきを提供することに意味があります。
その素材がたまたま美術であっただけにすぎないといいます。
「だれもが当たり前のように見ている世界に意外な謎が隠されています。その例がこの絵です」と、ある番組制作者が教えてくれたのが、この本の表紙になった絵です。
スペインの宮廷画家・ベラスケスが描いた「ラス・メニーナス」。
中央の幼いマルガリータ王女の肖像が有名な絵です。
王女を取り囲んでいるのは、お付きの女官、侍女、目付役、2人の小人と1匹の犬。 そして背後には、大きなカンバスに向かうベラスケス自身が描かれています。
「この絵に描かれた人物たちは誰かに向かってポーズをとっています。王女を見つめている人物とは誰でしょう」
答えを解く鍵は画家の脇に立てかけられた鏡にあります。
よく見ると鏡の中にふたりの人物が見えます。
王と王妃の肖像です。
画家は王女の両親の肖像画に向かって絵を描いていることがわかります。
鏡の先を辿って肖像の掲げられた場所を推理すると、肖像の位置はこの絵の画角と一致します。
つまり、名画の画角は裏返された王と王妃の肖像画と重なります。
私たち鑑賞者は、王と王妃と同じ存在ということがこの瞬間にわかります。
「番組作りのおもしろさは、映像という手段を使って見ている人たちに伝えることにあります。学者並みの知識がなくても番組は作れるのです」
素材の発見と、わかりやすく絵解きして伝える力が番組制作の醍醐味だとその担当者は語ってくれました。
会場:国立西洋美術館 2018年2月24日(土)~2018年5月27日(日)