「なぜ、世界のエリートはどんなに忙しくても美術館に行くのか?」岡崎大輔 著(SBクリエイティブ)
実業家の増田宗昭さんはTSUTAYAで知られるカルチャーコンビニエンスクラブの創業者です。東京代官山の蔦屋や二子玉川の蔦屋家電のように書店に空間という付加価値をつけた提案は、消費者に受け容れられました。その増田さんが「これからの書店は儲からない」と悲観的なことを書いていたことを思い出しました。
ではこれからヒットするものは何かとの問いに「多分残された分野はアートしかない」というのです。この言葉通り、TSUTAYAが乗り出したのがギンザシックス。その中心商品がアートでした。
欲しい商品瞬時に手に入るようになった現代。モノに対する所有欲はモノのなかった時代と比べその力を失っています。新しいあいであや商品が登場してもその賞味期間は短くなりました。
そのことに誰よりも先に気づいているのが企業を担うトップエリートたちであることは、アップルの経営思想を見るだけでわかります。
価格では戦えない。戦ったとしても消耗戦にならざるを得ず、それが社会の格差をますます深刻化させるだけなのです。
そこで再発見されているのがアートという審美眼です。
アートはその良し悪しを判断するための数的な根拠がありません。
数的な根拠を指標にしてきたのが旧来の経営感覚です。しかしそれでは消費のながれをつかむことができない。数的な根拠はないけれど人の感動を呼び起こすものを生み出すことがこれからの生きる道だということをトップエリートたちは気づいているのです。
エリート向けの美術啓蒙本に注目が集まる理由はなんなのか、美しいアートの裏側に目をこらす姿勢を持つことが肝心です。