本屋は燃えているか

ブックストアの定点観測

#アンドリュー“バニー"ファン #山形浩生「ハードウェアハッカー ~新しいモノをつくる破壊と創造の冒険」

f:id:tanazashi:20181112161729j:plain



 

「ハードウェアハッカー ~新しいモノをつくる破壊と創造の冒険」アンドリュー“バニー"ファン 著、山形浩生 監修、高須正和 翻訳(技術評論社

東京・秋葉原末広町に向かう道の左手の裏通り。日曜日になると人が異様に群がるむ露店が店を出します。行き交う若者たちにメモを見せて勧誘する異国の人の姿もあります。 彼らが商う商品はコピー商品。ゲームソフトを無料で起動できるように改造したメモリーや、いかにも怪しげなビジネスソフトのパッケージ。これが堂々と売られていました。

秋葉原メイド喫茶の街になる前の景色を思い出しました。

誰がどのような方法で怪しげな電子部品を作っているのか。その正体は一般人の間では謎でした。

その謎を解き明かしたのがこの本です。技術者でもある著者は精密機器の製造拠点として知られる中国深圳の工場まで訪ね歩き、ものづくりの現場を技術者の視点で解き明かします。

怪しいと睨んだプログラムは逆アセンブラという方法で正規品との差を発見し改変された部分から推理を広げます。製造現場にも潜り込み写真を集めます。普通の人なら入れないような場所も技術者であることが功を奏し製造ラインの映像も手に入れてしまいました。

正規の製造刻印が印字されたメモリーチップから刻印が削られ、劣悪なチップに変わる現場。

技術的な意味がわからなくても、写真と大意をたどることができます。

サスペンス小説を読むような緊張感を感じるのは、現実社会がブラックボックス化している表れと言えます。

明らかにアメリカのコピー商品と思われる製品も、実は発注元であるアメリカの思惑によって動きが左右されることなどを知るにつけ、製造元が勝手気ままにコピー商品を作り闇を生み出し続けた訳ではないことも見えてきます。 

物事には裏がある。

裏側の構造を作って儲けるのは頭のいい人である。

しかし、悪事はいずれ白日のもとに晒される。

そして今、もっと新しい世界で同じような構造が生まれていて、設けている人がいる。

想像力を働かせるために、ルポルタージュを読み込むことは欠かせません。

訳の監修は山形浩生さん。ピケティ本の訳でも知られる人が付いているので安心してお勧めできます。