本屋は燃えているか

ブックストアの定点観測

スパイ大事典

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「スパイ大事典」ノーマン・ポルマー 著(論創社

本書は日本で初めてのスパイに関する本格的な事典です。 歴史的事件の裏で、秘密裏に暗躍したスパイに関する事項を多数の写真、図版と共に収録。 ●1900以上の項目を50音順に収録! ●国立公文書館、FBI、NSA出典の写真や図版の他、CIA、FBI、KGBなどの組織図も多数併録 ●他に類を見ない、本邦初の本格的なスパイに関する百科事典! ●索引完備

枕になりそうな836ページの分厚い本です。本のサイズと価格もあって、出ても数冊と並べたところ補充することになりました。(「スパイ大作戦」と間違ったのは年配の書店員だけです。)用途も業務用の資料としての動きがほとんどでした。個人で買われる方も時代考証を仕事にする人などの常連さんたちです。

通信傍受法や共謀罪のようなきな臭い動きがある中、「スパイ大事典」という本が発禁にもならず堂々と出回っている日本は、まだ平和な時代なのかもしれません。 

スパイ大事典

スパイ大事典

 

 

新貧乏物語――しのび寄る貧困の現場から

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「新貧乏物語――しのび寄る貧困の現場から」中日新聞社会部 編(明石書店

私たちの社会を確実に蝕み続けている貧困問題。最近大きく取り上げられるようになった子どもの貧困のみならず、あらゆる世代にわたって、貧困に苦しむ人たちが増えている。だが、意外にもその姿はなかなか見えてこない。当事者への取材記事のほか、なぜ貧困問題が起きているのか、その背景を理解するための客観的なデータも加え、いまここにある貧困を描き出す。

他人が自分と同じように見えている限り、貧困は実感しにくい社会問題です。差別を助長する意味ではなく、他者は自分と違う生活や価値観を持っているということがわかってはじめて相手の立場に立って考えることができます。さらにこの問題の根深さを理解するには時間がかかります。日用品を買うにも通帳の残高が頭に浮かぶ。返済のことを考えるなど、本来なら費やす必要がない時間や労力を絡め取られる消耗感は伝わりにくいものがあります。副題にある「しのび寄る」という言葉が示す視点に、貧困を考える鍵があるように思います。手に取る放送局員の姿を見かける本の一つです。 

新貧乏物語――しのび寄る貧困の現場から

新貧乏物語――しのび寄る貧困の現場から

 

 

新きっぷのルール ハンドブック

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新きっぷのルール ハンドブック」土屋武之 著(実業之日本社

営業キロ+換算キロ」は乗車券だけ?特急券は?三セクや私鉄を通過する列車の運賃はどう計算する?旅行途中で列車がトラブル、運転打ち切りになったら?18きっぷで乗れるのはどこ?きっぷは考え方を理解すれば、たちどころにルールもわかる!

切符の旅といえば印象に残るのが、えふぶんの壱という制作プロダクションが企画した番組「列島縦断 鉄道12000キロの旅 〜最長片道切符でゆく42日〜」(2004年放送)です。旅番組のプロが集まった制作会社が総力を挙げた企画で、関口宏さんの息子さんの関口知宏が、一筆書きの鉄道旅に挑んだ番組でした。

その冒頭で、北海道の稚内駅から佐賀県肥前山口駅までJRのみの路線で同じ駅を2度通らずに走り抜ける最長のルートが紹介されていました。*1

当時30歳を超えたばかりの関口さんがへとへとになりながらも、ローカル線を旅する番組は毎日生放送されていました。番組の臨場感もさることながら、鉄道のスケジュールにあわせて中継の設営をする裏方陣の苦労や、ダイヤを守る鉄道技術の水準を実感することができました。

大勢の人を動員し、鉄道側と調整を積み重ねた上につくられたこの企画自体について考えると、切符のルールなど鉄道の情報がまとまっていないことには、成立しなかった番組ではなかったでしょうか。本には驚くようなテレビの企画を生み出す力が潜んでいます。 

新きっぷのルール ハンドブック

新きっぷのルール ハンドブック

 

 

*1:ちなみに、同じ駅を2度通らず、途中下車をしない場合、通ったルートがどれだけ遠回りしても、料金は乗車駅と下車駅を結ぶ最短料金が適用されるというミニ知識はのちに知りました

自分を好きになろう うつな私をごきげんに変えた7つのスイッチ

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「自分を好きになろう うつな私をごきげんに変えた7つのスイッチ」岡映里 著、 瀧波 ユカリ 画(KADOKAWA

『境界の町で』で鮮烈なデビューを果たした岡 映里が、うつ症状と向き合い「ごきげん」な自分を取り戻すまでの試行錯誤の1年半を書き下ろした、今までにないうつ回復エッセイ。

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人気漫画『臨死!!江古田ちゃん』『ありがとうって言えたなら』の著者、瀧波ユカリによる描き下ろし漫画も収録。自分と向き合うこと、自分を愛すること、あなたはできていますか?

f:id:tanazashi:20170712114652p:plain「病気は確かに自分のせいではないけれど、病気と付き合っていくやり方は自分で決められるんだ」と気付いた著者の回復の記録です。

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本書のターゲットが若い女性ということもあるのでしょう。エッセイをわかりやすく表現したイラストが闘病記特有の雰囲気を変えています。面陳したところ動きが出始めました。

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困っている。しかし人に相談できないという人が、快復に向けて歩き出すきっかけになりそうな本と言えそうです。

 

 

週間ベスト10 2017.07.11

ランキングです。 

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東京堂書店神田神保町店調べ(7月11日)

 

1「楽天の日々古井由吉 著(キノブックス)

恐怖が実相であり、平穏は有難い仮象にすぎない。現代日本最高峰の作家による、百余篇収録の最新エッセイ集。短篇小説「平成紀行」を併録。

楽天の日々

楽天の日々

 

 

2「蔵書一代―なぜ蔵書は増え、そして散逸するのか」紀田順一郎 著(松籟社

やむをえない事情から3万冊超の蔵書を手放した著者。自らの半身をもぎとられたような痛恨の蔵書処分を契機に、「蔵書とは何か」という命題に改めて取り組んだ。近代日本の出版史・読書文化を振り返りながら、「蔵書」の意義と可能性、その限界を探る。

蔵書一代―なぜ蔵書は増え、そして散逸するのか
 

 

3「今日はヒョウ柄を着る日」星野博美 著(岩波書店) 

『みんな彗星を見ていた』『コンニャク屋漂流記』『島へ免許を取りに行く』『転がる香港に苔は生えない』の人気作家が新境地をひらく、最新エッセイ集。戸越銀座のお年寄りがまとうヒョウ柄の存在に気づき、人間界―動物界のハイブリッド性に敏感になった著者は、いつしか若い世代―お年寄り、記憶―真実、現世―あの世などの境界線上を旅し始めていた……。 

今日はヒョウ柄を着る日

今日はヒョウ柄を着る日

 

 

4「鮎川哲也探偵小説選」鮎川哲也 著(論創社

戦後推理小説文壇の巨匠、鮎川哲也の知られざる作品がよみがえる! 未完の遺稿「白樺荘事件」、ファン待望の単行本初収録。雪の山荘を舞台にした連続殺人事件に名探偵・星影龍三が挑む「白の恐怖」を半世紀に復刻し、アリバイトリックを扱った「青いネッカチーフ」、ロマンチシズムの色気が漂う「寒椿」、無邪気さの中に恐怖を描いた掌編「草が茂った頃に」など、単行本未収録作品を一挙集成。別名義で発表された十二作の絵物語も挿絵付きで収録。

 

  

5「老い荷風川本三郎 著(白水社

第一人者の視点と筆さばき。『〓(ぼく)東綺譚』以降の作品と生活を中心に、老いを生きる孤独な姿を描く。

老いの荷風

老いの荷風

 

 

6「文学効能事典 あなたの悩みに効く小説」エラ・バーサド、スーザン・エルダキン 著(ジービー)

小説で愉しむ「病」と「悩み」の処方箋。

百年の孤独』、『華氏451度』、『秘密の花園』、『老人と海』、『一九八四年』、『嵐が丘』、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』、『ねじまき鳥クロニクル』...。
古今東西の名作文学作品があなたの悩みに効く「薬」になる! (かもしれない)。 

文学効能事典 あなたの悩みに効く小説

文学効能事典 あなたの悩みに効く小説

 

 

7「「男はつらいよ」を旅する」川本三郎 著(新潮社) 

西行種田山頭火のように放浪者であり、鴨長明や尾崎放哉や永井荷風のように単独者であった車寅次郎。すぐ恋に落ち、奮闘努力するもズッコケ続きで、高倉健の演じる役とは対照的な男―。なぜ、彼はかくも日本人を惹きつけるのか?リアルタイムで「男はつらいよ」全作品を見続けた著者もまた旅に出て、現代ニッポンのすみずみで見つけたものとは。寅さんの跡を辿って“失われた日本”を描き出すシネマ紀行文。 

「男はつらいよ」を旅する (新潮選書)

「男はつらいよ」を旅する (新潮選書)

 

 

8「鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。」川上和人 著(新潮社) 

出張先は火山にジャングル、決死の上陸を敢行する無人島だ!知られざる理系蛮族の抱腹絶倒、命がけの日々!すべての生き物好きに捧げる。 

鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。

鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。

 

 

9「夫・車谷長吉」高橋順子 著(文藝春秋

十一通の絵手紙をもらったのが最初だった。直木賞受賞、強迫神経症、お遍路、不意の死別。異色の私小説作家を支えぬいた詩人の回想。

夫・車谷長吉

夫・車谷長吉

 

 

10「東京 わざわざ行きたい街の本屋さん」和氣正幸 著(ジービー)

東京には、個性豊かな“街の本屋さん"がたくさんあります。 工夫を凝らした棚作り、見た人がワクワクできるラインナップ、ほっと落ち着ける空間、本の魅力をより多くの人に伝えるイベント……。 その街の風景になじみ、地元の人々に愛されながら、唯一無二の魅力を持つ存在。本書では、そんな東京の“街の本屋さん"を、エリア別に130店紹介したガイド本です。 160ページ、オールカラーで写真と地図付き。すべてのお店の外観写真と、目印になるものも紹介しているので、道に迷うことなくたどり着けます。 本書を片手にぜひ、本屋めぐりを楽しんでください。 

東京 わざわざ行きたい街の本屋さん

東京 わざわざ行きたい街の本屋さん

 

ブラックボックス化する現代 変容する潜在認知

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ブラックボックス化する現代 変容する潜在認知」下條信輔*1 著 (日本評論社

私たちの現代社会は巨大化し複雑化して、作動原理がわからないブラックボックスと化してきたのではないか。そして私たち自身の深層心理をも、受け身の反応マシンのようなものに変えてしまうのではないか――。

人工知能や「心を読む技術」の進展がもたらした、かつてないジレンマとは。さまざまな社会事象の分析を通して、現代が直面するリスクを横断的に見据える視座を示す。 

これから先「予測が当たらなくなる」「過去のブラックボックス化が起きる」「偽装が増える」という三つの予測に加えて、現代人の「ブラックボックスであっても受け入れる習性」はますます強まるだろうと著者は予測します。心のブラックボックス化とは、刺激に対して複雑な判断ができず、型にはまった反応しかできなくなることを言うのだそうです。主体的な判断を停止し、複雑なシステムに依存してしまうことは、今でも日常的に起きていますが、それでも重大な支障が起きないことが「安心」という"不安"を生み出し続けているように思えます。まさに技術と哲学とが融合したような世界にどのように向き合うか、手がかりを掴もうとする努力が必要なのでしょう。 

 

 

 

*1:認知神経科学者、カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授。認知神経科学者として日米をまたにかけて活躍する。1978年東大文学部心理学科卒、マサチューセッツ工科大学Ph.D.取得。東大教養学部助教授などを経て98年から現職。著書に『サブリミナル・インパクト』(ちくま新書)『〈意識〉とは何だろうか』(講談社現代新書)など。

急いでデジタルクリエイティブの本当の話をします。

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「急いでデジタルクリエイティブの本当の話をします。」小霜和也 著(宣伝会議

広告業界や企業のマーケティング部署はまさにいま、「デジタルクリエイティブ」の見直しが求められています。
まず目の前の課題は、「Web動画」をいかに「WebCM」にするかである、と著者は語ります。

アドテクノロジーが進化し続けているにもかかわらず、Webでは成果が不確実なバズ動画や、Webの特性を無視してテレビCMや商品解説トレーラーをそのまま配信するなど、メディア運用者とクリエイティブの寸断によってコミュニケーションが最適化できていない。
「動画」ではなく「CM」としてきちんと成果を出すやり方を取らなければいけない。そのことによって、Webとマスは横並びの、一続きのものとして統合できるのだと。

本書は、マスとWebを横断したコミュニケーションで高い実績を持つ筆者が、自身の仕事の中で培った「デジタルクリエイティブ」の成功例、WebCMの具体的な作り方を中心に、マスとWebをどう統合すれば成果に
つながるかをクリエイティブ視点で解説しています。
商品によってはWebCMをテレビCMとして機能させることも可能で、そういったノウハウを広く公開します。
さらには、WebCMの次のステージ、デジタルクリエイティブの今後の展望についても言及しています。

本当に役に立つデジタルの文脈とノウハウを、多数の実例をもとに丁寧に解説、デジタル広告の原理原則を押さえ、キャンペーン全体の構成からクリエイティブのポイント、さらに重要度が高まっている運用からマネジメントの基本まで、今まさに必要とされる知識を網羅した1冊です。

内容紹介を読んでも何を言っているのかわからないのが広告業界の悪い癖です。カタカナ用語を羅列しないと伝わらないのか、伝えようとする気がないのか困ったことです。これまでは見るだけだったコマーシャルが、ネット上では触って動かしたり、体験したりすることができる。そんな変化を先取りして新しいコマーシャルに挑む人向けの本のようです。放送局員には直接ヒットしそうな本ではないかもしれません。 

急いでデジタルクリエイティブの本当の話をします。

急いでデジタルクリエイティブの本当の話をします。