美術品とお金の話を綴った本。
「サザビーズで朝食を─競売人が明かす美とお金の物語」フィリップ・フック 著(フィルムアート社)
シャガール、ミロは、ブルーが多いほど高額に?ゴッホは自殺したからこそ、価値が高まった?アーティストの“狂気”は市場に影響を及ぼす?サザビーズのディレクターが、長年の経験をもとに作品の様式からオークションの裏側まで、さまざまなトピックを解説。美術作品の“真”の価値を見分ける78のトピック集。ガーディアン、フィナンシャル・タイムズ、サンデー・タイムズ、スペクテーター、各紙誌のBooks of the Year!
美術番組担当者の話によると、現役で活躍している作家の作品はよほど著名な作家か、作家自体に魅力がないと企画が通らないのだそうです。その背景に美術市場の存在があるようです。その市場を語る上で欠かせないのが「サザビース」と「クリスティーズ」の2大競売会社です。コレクターだけでなく、多数の金融ファンドが投資する巨大市場となったのに、その実情はあまり知られていません。
本書は両社で長く働いてきた花形競売人が書いた内幕物です。美術の歴史、芸術家、作品の解説が、徹底的に競売人の視点から書かれている点がユニークです。競売会社のおもな客筋は美術愛好家だけではありません。金融ファンドの投資や資金洗浄(マネーロンダリング)などの舞台として利用される場合もあります。
本書の帯には、ゴッホは自殺したからこそ作品の価値が高まったのだと書かれています。「苦悩に満ちた彼の絵のこれまで認められてきた価値」を維持するには、市場としては自殺が望ましいのだそうです。「アーティストの作品価格にとって、自殺や早世が有利に働くことにはほとんど疑いがない」と語る著者の視点は美術品を見る側の価値観を試しているようです。