本屋は燃えているか

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#石井遊佳「百年泥」

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「百年泥」石井遊佳 著(新潮社)

私はチェンナイ生活三か月半にして、百年に一度の洪水に遭遇した。橋の下に逆巻く川の流れの泥から百年の記憶が蘇る! かつて綴られなかった手紙、眺められなかった風景、聴かれなかった歌。話されなかったことば、濡れなかった雨、ふれられなかった唇が、百年泥だ。流れゆくのは――あったかもしれない人生、群れみだれる人びと……

第158回芥川賞受賞作品の単行本です。

毎年二月と八月は、出版関係者にとって嫌な月。本が売れない季節でした。この季節を乗り切るイベントとして始まったといわれるのが芥川・直木の文学二賞です。受賞作品は日本中の話題となり、作家は一躍スターになりました。

時は過ぎ、本が売れない時代を迎えると、挽回策として様々な賞が生まれます。さながら戦後、焼け野原だった東京が復興してゆく姿と重なります。街のどこからでも見えた東京タワーが高層ビルの陰に隠れていくのと同様に、文学二賞に向ける人々の関心も変わって行きました。

「百年泥」というタイトルを見ると、なぜか本を取り巻く記憶が蘇ってくるのです。