本屋は燃えているか

ブックストアの定点観測

週間ベスト10

新書部門のランキングです。 

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丸善丸の内本店本店調べ(3月2日~8日)

 

1「国家の矛盾」高村正彦、三浦瑠麗 著(新潮社)

自民党政権はなぜ集団的自衛権の行使容認に踏み切ったのか。日本外交は本当に「対米追従」なのか。外交・安保論議を一貫してリードしてきた自民党の重鎮が舞台裏を明かす。日米同盟と憲法9条に引き裂かれた戦後日本の安全保障論議に「不健全なもの」を感知する国際政治学者が、平和安全法制の「騒動」に見たものとは―。外交・安保の「現場」と「理論」が正面からぶつかり合った異色の対談。

国家の矛盾 (新潮新書)

国家の矛盾 (新潮新書)

 

 

2「応仁の乱 - 戦国時代を生んだ大乱」呉座勇一 著(中央公論新社

室町後期、京都を戦場に繰り広げられた内乱は、なぜあれほど長期化したのか。気鋭の研究者が戦国乱世の扉を開いた大事件を読み解く。

応仁の乱 - 戦国時代を生んだ大乱 (中公新書)

応仁の乱 - 戦国時代を生んだ大乱 (中公新書)

 

 

3「フィードバック入門 耳の痛いことを伝えて部下と職場を立て直す技術」中原淳  著(PHP研究所

年上の部下、育たない若手…多様化する職場の人材に対応できず、部下育成がおろそかになっている現代のマネジャーたち。そんな悩みを解決する、日本の企業ではあまり知られていない人材育成法、それが「フィードバック」。「成果のあがらない部下に、耳の痛いことを伝えて仕事を立て直すこと」と定義されるこの部下指導の技術について、基本理論から実践的ノウハウまでを余すことなく収録。「フィードバック」の入門書にして決定版の1冊。

 

4「「トランプ時代」の新世界秩序」三浦瑠麗*1 著(潮出版社

各種メディアで大活躍の女性論客・三浦瑠麗がトランプ大統領のアメリカと日本に未来を語る! 1月20日の大統領就任の日にあわせて刊行! 「トランプ大統領は歴史の必然?」「岐路に立つ日米関係。日本人は自分の頭で考え、行動する時が来た! 」

「米国がいない世界」の幕が開いたようです。世の中の動きをどう読み解いていったらいいか。そのヒントを与えてくれます。

lullymiura.hatenadiary.jp

 

5「言ってはいけない 残酷すぎる真実橘玲 著(新潮社)

この社会にはきれいごとがあふれている。人間は平等で、努力は報われ、見た目は大した問題ではない―だが、それらは絵空事だ。進化論、遺伝学、脳科学の最新知見から、人気作家が明かす「残酷すぎる真実」。読者諸氏、口に出せない、この不愉快な現実を直視せよ。

言ってはいけない 残酷すぎる真実 (新潮新書)

言ってはいけない 残酷すぎる真実 (新潮新書)

 

 

6「海外経験ゼロでも仕事が忙しくても「英語は1年」でマスターできる」三木雄信 著(PHP研究所

英会話が大の苦手なのに、孫正義氏の秘書に任命された元ソフトバンク社長室長。英語の会議で固まる自分に注がれた孫社長の視線…クビ回避のため自分に設けた期間は1年間。超多忙な日々、たった1年で英語をマスターするという決意のもと編み出した究極の勉強法を完全公開。「仕事で必要な英語だけ勉強する」「教材は一つに絞る」などの学習戦略に加え、やる気維持・習慣化や教材・スクール選びのコツも紹介。ベストセラー、待望の新書化。

「【戦略7】発音はあきらめる」と書いてあるのにはちょっと共感しました。なりふり構うな。他人の目は気にするな。というセオリは何にしても同じです。

7「人口と日本経済 - 長寿、イノベーション、経済成長」吉川洋  著(中央公論新社

人口減少が進み、働き手が減っていく日本。もはや衰退は不可避ではないか。そんな思い込みに対し、長く人口問題と格闘してきた経済学は「否」を突きつける。経済成長の鍵を握るのはイノベーションであり、世界有数の長寿国である日本にはそのためのチャンスが多々転がっているのだ。
日本の財政は破綻するのか、AIは人間の仕事を奪うのか、人間にとって経済とは――やわらかい語り口で、人口と経済の核心に迫る。

 

8「ルポ トランプ王国――もう一つのアメリカを行く」金成隆一 著(岩波書店

なぜトランプなのか?ニューヨークではわからない。アバラチア山脈を越えると状況が一変した。トランプを支持する人々がいた。熱心な人もいれば、ためらいがちな人も。山あいのバー、ダイナー、床屋、時には自宅に上がり込んで、将来を案ずる勤勉な人たちの声を聴く。普段は見えない、見ていない、もう一つのアメリカを見る。

ルポ トランプ王国――もう一つのアメリカを行く (岩波新書)
 

 

9「キャスターという仕事」国谷裕子 著(岩波書店

今という時代を映す鏡でありたい──。従来のニュース番組とは一線を画し、日本のジャーナリズムに新しい風を吹き込んだ〈クローズアップ現代〉。番組スタッフたちの熱き思いとともに、真摯に、そして果敢に、自分の言葉で世に問いかけ続けてきたキャスターが、23年にわたる挑戦の日々を語る。

キャスターという仕事 (岩波新書)

キャスターという仕事 (岩波新書)

 

岩波書店の出版物は返品制を採用していません。書店の買い切りという責任販売制の形となっていて、仕入れたら売り切らないと不良在庫になります。それでも売れる自信がある本の一つです。

10「サイコパス中野信子 著(文藝春秋

とんでもない犯罪を平然と遂行する。ウソがバレても、むしろ自分の方が被害者であるかのようにふるまう…。脳科学の急速な進歩により、そんなサイコパスの脳の謎が徐々に明らかになってきた。私たちの脳と人類の進化に隠されたミステリーに最新科学の目で迫る!

 

サイコパス (文春新書)

サイコパス (文春新書)

 

脳科学者が脳の構造から生理学的にサイコパスを解説したもの。サイコパスという定義に対する十分な考察がされていない。という点が評価を分けています。

 

 

*1:国際政治学研究者。東京大学政策ビジョン研究センター講師。株式会社山猫総合研究所代表

「ブラタモリ」ブーム・古地図で辿るミニツアー・江戸城の全貌 ―世界的巨大城郭の秘密

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江戸城の全貌 ―世界的巨大城郭の秘密」萩原さちこ 著(さくら舎)

江戸城の全てと秘密!江戸城は面白い!徳川家康は不毛の地・江戸を、どのようにして世界最大級都市へと発展させたのか?江戸城の秀逸な構造と築城秘話に迫る!

 今年度の放送文化賞の話題をさらったのはタレントのタモリさんです。ご当地の歴史を辿る「ブラタモリ」が好評で、地域の歴史を歩いて回るミニツアーも各地で盛り上がっています。放送が文化に果たす方向性を示してくれたような気がします。番組プロデューサーが書いた内輪話を読むと ヒットに至る道のりの険しさがわかります。

時代をつかむ!ブラブラ仕事術

時代をつかむ!ブラブラ仕事術

 

 「マニアにしか受けない」と言われながらスタートした番組ですが、「何も知らない」は武器になると、テーマを深く掘り下げた作り方が王道をゆくものだったことがわかります。調べてゆくと、定時番組として誕生するまでに、先行して制作された特集番組があることがわかりました。この番組の柱となっているのは古地図です。ふだん何気なく見ている風景やくらし。その歴史をさかのぼると発見があることに気付いた制作者がいたのです。例えば「大江戸繁盛記(1)~江戸古地図の旅」(2003)

江戸の歴史と魅力を描くシリーズの第1回。現代の東京に生きる少女と、江戸時代からタイムスリップしてきた侍が、古地図を頼りに、江戸と東京を行き来する。

地図に描かれた事実と現在ある風景の差分を検証するという手法です。こうした調査報道は放送局員にとっては慣れたもの。次々に意外な事実が明らかになってきました。こうした番組の進化形が「ブラタモリ」となって私たちを楽しませてくれるのです。さて、一般人はとてもそこまでの取材力は持てませんが、様々な資料をつつき合わせることで目から鱗の発見をすることができます。「ブラタモリ」でも描かれていましたが、江戸の市街はもともと葦が茂る荒れ地でした。

徳川家康豊臣秀吉の命で入った江戸は、ひどい荒地でした。しかし家康は、不毛の地・江戸を「理想の国家をゼロから構築できる新天地にしよう」と思考転換したのです。

江戸城の全貌」を手に実際に城歩きを楽しむと別の発見があるかもしれません。

江戸城の全貌 ―世界的巨大城郭の秘密

江戸城の全貌 ―世界的巨大城郭の秘密

 

 

兵士に聞け 最終章

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「兵士に聞け 最終章」杉山隆男 著(新潮社)

中国と対峙する尖閣の「空」と「海」の最前線。頻発する中国の領空侵犯にスクランブル発進を繰り返し、常態化する領海侵犯に24時間体制で哨戒活動を行なう。激しさを増す任務の中で隊員達は何を思うのか。「非常時」が日常となった尖閣の日々を追う。取材開始から24年。現場の声を拾い続け、自衛隊の実像に迫り続けた「兵士シリーズ」ついに完結!

本シリーズが上梓された1993年(平成5年)といえば奥尻島津波の年です。5月にはモザンビーク自衛隊が海外派兵が実施され、自衛隊員のみなさんが救助と防衛の両端に動員され多忙を極めた年だったように思います。一般人にとってそれ以前の自衛隊のイメージは迷彩色で彩られた機械のような存在で、下手に触るとケガをする恐怖に近いものでした。その組織に入り込み、働く人の目線で彼らの生活を掘り起こす著者の仕事は、事実というものの重みと、予断の持つ危うさを気付かせてくれました。2004年私はあるつてで陸上自衛隊第6師団を見学する機会に恵まれました。

第6師団年表

応対していただいた隊員の皆さんからは、かつて抱いた迷彩色で鉄面皮とは違う生活人の匂いがしました。急な命令や配属で転勤(異任地生活)の多い中、隊員の家族たちは近隣の町村で地域になじんだ生活を送っていました。アブナイ場所で働く(任務に就く)肉親を見守る家族の存在に気がつくと、平和の意味もまた違って見えてきます。

兵士に聞け 最終章

兵士に聞け 最終章

 

 

平成29年度 第20回文化庁メディア芸術祭・マンガ部門 受賞作品

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平成29年文化庁メディア芸術祭 大賞受賞作品が3月16日発表されました。「君の名は。」や「シン・ゴジラ」が受賞しました。マンガ部門は「BLUE GIANT」が大賞を受賞しました。

大賞「BLUE GIANT石塚真一

ジャズに魅せられた少年・宮本大が一流のジャズプレイヤーを目指す「青春ジャズ成長譚」。仙台に住む大はバスケ部に所属していた中学の時、友人に連れられて見たジャズの生演奏に心打たれ、ひとりサックスの練習を始める。楽譜は読めず、スタンダードナンバーも知らない。ただまっすぐ突き進み、雨の日も猛暑の日も広瀬川の川原で毎日サックスを吹き続ける大の演奏に、徐々に人々は惹かれていく。高校卒業と同時に、大は「絶対にオレは世界一のジャズプレイヤーに、なる」という決意を持ち上京する。同年代で非凡な才能をもつピアニスト沢辺雪祈、大の同級生で2人に追いつくために猛練習を重ねるドラムの玉田俊二とともにトリオ「JASS」を結成した大は、互いに切磋琢磨しながら必死に演奏し、有名バンドの前座として大舞台に立つなど反響も日に日に大きくなっていく。彼らのライブに足を運ぶ客の数も増えていくが、雪祈のもとに思わぬオファーが舞いこんだことをきっかけに、トリオは新たな局面を迎える。『岳─みんなの山─』で知られる作者の迫力溢れる筆致により紙面上で音が鳴っているように感じられる意欲的作品。

受賞理由

荒削りながら得体の知れない迫力で周囲を圧倒する主人公のように、本作はJAZZを知る人も知らない人もぐいぐい惹きつけて大賞に輝いた。だが作品自体はけっして荒削りではなく、外連味のない魅力が用意周到に発揮されている。音が出ないというマンガの性質を逆手にとった即
興演奏の描写がその一例である。爆発した情熱が音楽として輝く奇跡のような瞬間、メンバー同士の丁々発止のやりとり、その現場に立ち会った聴衆との交感は、この作品の白眉である。これが歌詞のある音楽や、あるいは漫才や落語のような言葉を操る表現をテーマにした作品だったら、ここまでテンポよく描いて読者を感動させるのは難しいのではないか。また、己の才能と現実の壁、人との出会いや相克という普遍的かつリアルなテーマも、魅力的なキャラクターを一人ひとり丁寧に描くことで、読者の胸を打つ作品へと結実させており、本年度の大賞にふさわしい作品であると判断した。(古永 真一)

 

BLUE GIANT 10 (ビッグコミックススペシャル)

BLUE GIANT 10 (ビッグコミックススペシャル)

 
BLUE GIANT SUPREME 1 (ビッグコミックススペシャル)
 

 

優秀賞「総務部総務課 山口六平太」高井研一郎

「サラリーマンの応援歌」と呼ばれ、長年愛されてきた作品。主人公・山口六平太は、うだつの上がらないように見えるサラリーマンだが、じつはどんな問題も独自の解決法で切り抜ける「スーパー総務マン」である。職場である自動車メーカー・大日自動車株式会社の総務部総務課は「なんでも屋」として、他部署からさまざまな依頼が舞い込む。持ち込まれるトラブル解決を軸とする1話読み切り型のヒューマンドラマで、時にはサラリーマン社会のさまざまな問題もテーマとして扱う。悪口と嫌味ばかりだが憎めない有馬係長、人はいいが優柔不断な今西課長、なぜか六平太と馬の合う田川社長、六平太の婚約者であり社長秘書の吉沢小夜子、同じ総務課の同僚など、六平太を取り巻くキャラクターも魅力的に描かれ、幅広い読者の共感を得た。2016年11月、作画担当の高井研一郎の急逝により30年に渡る連載に幕を下ろした。

受賞理由

架空の自動車会社を舞台に「超凡人・ある意味スーパーマン」の山口六平太がさまざまなトラブルを解決する。そのキャラクター造形は均一な太さの線で柔らかみを帯びており、親しみやすさを醸し出している。六平太だけでなく、嫌味ばかり言っている上司の有馬係長でさえもその描線のもとでは愛らしく見えてくるほど。一度も休載することなく、いつしか連載30年、単行本81巻一千万部超え。「サラリーマンの応援歌」と謳われ、不動の人気を誇っていた本作は2016年11月、作画者、79歳の高井研一郎の死去により唐突に終了した。ぴったり60年間、現役第一線を走り続けた「マンガ人生」は見事というほかはない。原作の林律夫についても、本作におけるその功績は大きい。時代の
社会情勢を反映させながら、六平太以外の人間模様も描かれ、まさしくヒューマンドラマの名にふさわしい作品に仕立て上げられている。この作品が長きにわたって描き続けられていたことで、多くの社会人の励ましや癒しとなっていたに違いない。(みなもと 太郎)

 

総務部総務課 山口六平太 81 (ビッグコミックス)

総務部総務課 山口六平太 81 (ビッグコミックス)

 

 

優秀賞「未生 ミセン」ユン・テホ

韓国を舞台に会社員の哀歓をリアルに描き出した群像劇。「未生(ミセン)」とは韓国特有の囲碁用語で、「死んでもいないし、生きてもいない石」を意味する。主人公のチャン・グレは囲碁のプロ棋士を目指し、弱冠10歳で韓国棋院の研究生となった。だが、プロ入りに失敗し棋界を去ることになった彼は、流されるまま縁故で大手総合商社のインターンシップとして働きはじめる。そして一筋縄ではいかない上司や、それぞれの思惑を秘めたインターンの同期と向き合いながら、正社員採用を目指す。満足な職歴も学歴もない彼が、囲碁で培った思考力を武器に、会社という盤上で碁を打つ。実際の棋士たちの名勝負と重ねあわせながら、日々仕事に葛藤する「会社員」の姿と韓国の現代社会が描かれている。作品は最初にウェブ上で発表され、2014年には韓国でドラマ化され、社会現象となった。日本でも2016年に『HOPE ~期待ゼロの新入社員~』としてドラマ化されている。

受賞理由

読者はまず絵を見る。マンガ家は絵に自分らしい特徴を持たせるため研究したりするのだが、不思議なことになぜか国によって拭えない特徴が出る。このマンガもそうだった。作者の名前を見るまで、どこか近寄りがたくも新鮮さを感じた。画力のある絵と物語に引き込まれていく。
かつての囲碁の天才少年が商社で働くというのは、夢物語のようでありながらも、現代韓国の若者の問題が内包されているのが透けて見える。登場人物たちは時に負け、時に勝ちながら、囲碁の手を進めるように進んで行く物語の構成力が素晴らしい。韓国や日本でドラマ化され、特に韓国では社会現象を起こした作品であると前評判も高かった。学歴社会や経済成長のひずみに落ちた主人公に共感したのかもしれない。日本でも同じような状況が続いて久しい。バブルは遠い夢物語になり、「悟り世代」と呼ばれる日本の若者たちにも、小さな碁盤の上のような社会の勝負を見て欲しい。(犬木 加奈子)

 

未生 ミセン(1) (KCデラックス)

未生 ミセン(1) (KCデラックス)

 
未生 ミセン(9)<完> (KCデラックス)

未生 ミセン(9)<完> (KCデラックス)

 

 

優秀賞「有害都市」筒井哲也

表現規制」をテーマに、現代社会における表現の自由の問題に一石を投じる作品。2020年、オリンピックを目前に控え、「浄化運動」と称した異常な排斥運動が行なわれ、猥褻なもの、いかがわしいものを排除するべきだという風潮が強まっている近未来の東京が舞台となっている。そこでは、マンガも過激な性表現、暴力・残虐表現、反社会・反
権力的な描写が含まれていると、「有識者会議」によって青少年に悪影響を与えるとされる「有害図書」に指定され、販売が規制されるようになっていた。そんな状況下で、「食屍病」という人の屍肉を食べたいという抗しがたい欲求にかられる病の蔓延を描く作品を発表するひとりのマンガ家・日比野幹雄がいた。日比野は自分の描きたいマンガが規制を受けずに世に出る方法を模索する。ストーリーは、規制が強くなっていく現実世界と日比野が描くマンガの荒廃した世界が同時に進行し、と
きにシンクロしながら展開していく。

受賞理由

審査委員の意見が大きく割れることなく、ほぼ全員が高評価をつけての贈賞となった。ストーリーテリングの巧みさ、画の達者さなど、前作『予告犯』(2011–13)でも感じられた作者の「うまさ」が光っており、「マンガの表現規制」という、情熱だけでは描き切れない本作のテーマが最良のかたちで表現されている。また本作は「マンガ家マンガ」でもあり、作者自身の表現規制への思いも筆が乗ってか、緊迫感が最後まで続く。そして本賞が「文化庁」主催であるからには、我々審査委員にマンガの表現規制をどう捉えるのか、という問いを真正面から突きつけた、ともいえるだろう。実際に読んでいるあいだ、そのことをつねに問われているような切迫感があったが、物語に没入するようにどんどんページを繰ってしまった。マンガというメディアは、内容にどんな社会的意義があろうと、教育的な内容であろうと、大前提として「おもしろい」ものでなければならないはずである。本作もまた、そのための工夫に満ちているおもしろいマンガにほかならない。(門倉 紫麻)

 

 

優秀賞「Sunny」松本大洋

鉄コン筋クリート』『ピンポン』『GOGOモンスター』『ナンバーファイブ 吾』―未来、スポーツ、異界、SF、あらゆる世界で、体と心を躍動させる少年たちを描き続けてきた作者が、親と離れ児童養護施設で過ごした自らの少年期に思いを馳せつつ描いた作品。問題児で、ある事情から白髪になってしまった春男、横浜からやってきた真面目でガリ勉タイプの静を中心に、純助、めぐむ、きい子、研二ら、「星の子学園」にはいろいろな事情から齢も境遇も異なる子どもたちが親と離れて暮らす。園の片隅に放置された自動車「サニー」は、子どもたちの遊び場であり、教室だった。「学園の子」同士の友情やけんか、学校の同級生ら親と暮らす「家の子」たちとの交流、学園のスタッフである足立さん、自分の親との微妙な関係など、日々起きる大小さまざまな出来事を通して、少しずつ成長していく子どもたちの心情を描く。

受賞理由

子どもの不幸は自分では何も選べない不自由さにあると思う。誰と一緒に暮らすかも、どこで暮らすかも選べない。しかし希望が叶えられなくても簡単には絶望していられない。大人はその場しのぎの幸せな嘘をついて逃げていき、不幸な重い現実を子どもに背負わせるけど、子どもが嘘をついたり逃げたりは許されない。「星の子学園」では家庭の事情と理不尽な感情を抱えた子どもらが暮らしている。みんな他人で、文房具は誰かのお古。庭に放置された廃車のサニーは乗れば空想のガソリンを満タンにしてどこにでも行けるけど、降りれば元の場所だ。マンガのなかにいくつか出てくる当時の昭和歌謡のように、状況はくどくど説明されず、どうにもならない感情の景色はたっぷりと描かれている。自分の子どもの頃の寂しさや大人になってからの後ろめたさに似た気持ちが拾いきれないほどにそこにある。サニーに乗り込むようにこのマンガを開くたびに見つける感情がある。(松田 洋子)

 

Sunny コミック 全6巻完結セット (IKKI COMIX)

Sunny コミック 全6巻完結セット (IKKI COMIX)

 

 

新人部門「応天の門」榛原薬

平安時代初期、京の都を舞台とした歴史サスペンス・ストーリー。学問の神様と称される菅原道真と、光源氏のモデルとも言われている平安の色男・在原業平がタッグを組み、都で起こる怪事件を解決していく。女官の連続行方不明事件や絶世の美女と謳われる玉虫姫をめぐるトラブルなどを、道真の「理知」と業平の「機知」を活かし次々と解決する様が、歴史検証に基づくキャラクター設定と美麗な筆致で描かれる。作中では、『伊勢物語』を想起させる業平と藤原高子との恋模様や、政に関心のなかった道真が藤原良房をはじめとした藤原勢力との権力争いに巻き込まれていく史実に基づくストーリーも展開していく。

 

応天の門 コミック 1-5巻セット (BUNCH COMICS)

応天の門 コミック 1-5巻セット (BUNCH COMICS)

 

 

7「月に吠えらんねえ」清家雪子

萩原朔太郎北原白秋室生犀星らの作品から生まれた「朔くん」「白さん」「犀」など、詩人本人ではなく作品のイメージをキャラクター化し、近代詩と日本の近代をいきいきと描いた作品。物語の舞台となる「□(シカク:詩歌句)街」には、詩人・歌人俳人の作品をもとにした架空のキャラクターたちが集い、創作に励む。ある日、町はずれに謎の死体が現われた頃から街は戦前・戦中の不穏さに強く導かれはじめ、詩人たちはその雰囲気に抗えず戦争賛美へと向かってしまう。登場人物の言葉として鮮やかに引用される詩の数々は、創作にまい進する詩人たち、目覚めた自意識に苦しむ近代の女性像、文学者の戦争責任など、各々の罪や功績を鋭く描いている。

 

月に吠えらんねえ コミック 1-5巻セット (アフタヌーンKC)

月に吠えらんねえ コミック 1-5巻セット (アフタヌーンKC)

 

 

8「ヤスミーン」畑優似

ライオンが支配する野生の王国を舞台に繰り広げられる「暴力動物アナーキズムマンガ」。王国に暮らす草食動物のトムソンガゼルはシマウマなどとは違い、ライオンに喰われることがない。なぜなら彼らは「不味い」から。美食に狂う王族のライオンたちに対し、抵抗するトムソンガゼルのブエナ、ライオンと真っ向から対峙する伝説のチーター「白い悪魔」など、肉食、草食、雑食、さまざまな動物が血飛沫を上げ、王族に対し反乱を起こす。本作では、本来四足歩行の動物を二足歩行として描いているが、それぞれの種族の特徴を写実的にとらえ、「どこかにこんな世界があるのかもしれない」と思わせることに成功している。

 

ヤスミーン コミック 全3巻完結セット (ヤングジャンプコミックス)

ヤスミーン コミック 全3巻完結セット (ヤングジャンプコミックス)

 

 

信じちゃいけない身のまわりのカガク あなたはそれで、本当に健康になれますか?

この本字体がトンデモの雰囲気を漂わせていますが漂わせていますが・・・

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「信じちゃいけない身のまわりのカガク あなたはそれで、本当に健康になれますか?」渋谷研究所X 著、菊池誠 著(リットーミュージック

もうダマされるのは、終わりにしよう。
世の中にはびこる、カガクっぽいものを検証&一刀両断!

科学的でないのに科学的な根拠があるふりをする“ニセ科学"たち。こういった本当かウソかわからないような健康情報、出所のあいまいなマスコミ報道/口コミ情報などが世にはびこる案件をピックアップし、(架空の研究所である)渋谷研究所Xの亀さんと六さんという二人の研究員が、ボケたり突っ込みを入れたりしながら、その真相に迫ります。また、本文とあわせて大阪大学教授である菊池誠氏による、“学術的な視点での見解"も掲載。本書を読めば “ニセ科学"の本質が鮮明に見えてくるはずです。

科学を担当する放送局員にいわせると、「中味より”エビデンス(証拠)"を確かめることが先」 なのだそうです。著者が科学者であるならば、引用した論文が巻末に整理されていれば、書いてあることの裏が取れます。科学の世界は専門家にもまれた「論文」がまずは頼りになるわけで、証拠がないものは信用しないほうが身のためなのだそうです。

健康本関係の出版社に勤めたことのある知人(現在はフリー)によると、健康本は「ブームを作って売る」という編集部の体質があるのだそうです。まずは読者の不安を煽り、その解決策を他誌より早く提示して売るという、ちょっとアヤシイ編集方針です。ブームが下火になると次のブームのネタを探す。その繰り返しなのだといいます。

医療関係者にしても同様なのですが、たまに免許を取ったがあと勉強を怠っている人がたまにいるらしく、古い情報をもとに見立てを続けるケースもあると聞きました。勉強を怠らない専門家は周囲から信頼されるので、人物評価もあわせて読み解いていくのがリテラシー。素人にはベストチョイスなのかもしれません。 

 

 

週間ベスト10

ランキングです。 

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東京堂書店神田神保町店調べ(3月14日)

 

1「東京こだわりブックショップ地図 散歩の達人POCKET 」屋敷直子 著(交通新聞社

本書は、月刊『散歩の達人』の連載で10年近くにわたりのべ150軒を超える東京近郊の書店を訪れ、店主にインタビューを重ねてきた著者による書店(ブックカフェ含む)ガイド。新刊古書問わず、個性的な書店(とその担い手)を紹介します。本屋さんが多い街のめぐり方、若手による書店プロジェクトの動向など、本好き・本屋さん好きのみならず、散歩好きの一般読者、さらには業界関係者にもぜひ読んでいただきたい1冊です。

 

2「騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編」村上春樹 著(新潮社)

1Q84』から7年――、待ちかねた書き下ろし本格長編

その年の五月から翌年の初めにかけて、私は狭い谷間の入り口近くの、山の上に住んでいた。夏には谷の奥の方でひっきりなしに雨が降ったが、谷の外側はだいたい晴れていた……それは孤独で静謐な日々であるはずだった。騎士団長が顕(あらわ)れるまでは。 

騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編

騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編

 

 

3「騎士団長殺し :第2部 遷ろうメタファー編」村上春樹 著(新潮社)

物語はここからどこに
進んでいこうとしているのか?

その年の五月から翌年の初めにかけて、私は狭い谷間の入り口近くの、山の上に住んでいた。夏には谷の奥の方でひっきりなしに雨が降ったが、谷の外側はだいたい晴れていた……それは孤独で静謐な日々であるはずだった。騎士団長が顕(あらわ)れるまでは。 

騎士団長殺し :第2部 遷ろうメタファー編

騎士団長殺し :第2部 遷ろうメタファー編

 

 

4「神田神保町書肆街考: 世界遺産的“本の街”の誕生から現在まで」鹿島茂 著(筑摩書房

世界でも類例のない古書店街・神田神保町。その誕生から現在までの栄枯盛衰を、地理と歴史を縦横無尽に遊歩して鮮やかに描き出す。

 

5「地下道の鳩: ジョン・ル・カレ回想録」ジョン・ル・カレ 著(早川書房

東西冷戦、中東問題、ベルリンの壁崩壊、テロとの戦い──刻々と変化する国際情勢を背景に、ル・カレは小説を執筆し、『寒い国から帰ってきたスパイ』、『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』に始まるスマイリー三部作、『リトル・ドラマー・ガール』などの名作を世に送り出してきた。
本書は、巨匠と謳われる彼の回想録である。その波瀾に満ちた人生と創作の秘密をみずから語っている。

地下道の鳩: ジョン・ル・カレ回想録

地下道の鳩: ジョン・ル・カレ回想録

 

 

6「魂でもいいから、そばにいて : 3・11後の霊体験を聞く」奥野修司 著(新潮社)

「今まで話せませんでした。死んだ家族と“再会”したなんて……」「津波に流された愛娘の魂は、三年後、母と祖母のもとに戻ってきた」「亡き伯父から携帯に電話が……」――東日本大震災の遺族が初めて「告白」した奇跡の体験と絶望からの“再生”の物語。感涙必至!

魂でもいいから、そばにいて―3・11後の霊体験を聞く―

魂でもいいから、そばにいて―3・11後の霊体験を聞く―

 

 

7「虞美人草 (定本 漱石全集 第4巻) 」(岩波書店

職につかず超俗の日々を送る甲野と、気の強い異母妹藤尾。外交官をめざす豪放磊落な宗近と、兄想いの妹糸子。過去を捨て立身出世を夢見る小野と、内気ないいなずけの少女小夜子――東京と京都を舞台に、男女六人の若者たちが織りなすひと春の絢爛たる愛の群像劇。職業作家の道を歩みはじめた漱石が描く、渾身の本格的恋愛長編小説。

虞美人草 (定本 漱石全集 第4巻)

虞美人草 (定本 漱石全集 第4巻)

 

 

8「ゆらぐ玉の緒」古井由吉 著(新潮社)

陽炎の立つ中で感じるのも、眠りの内のゆらめきの、余波のようなものか。老齢に至って病いに捕まり、明日がわ からぬその日暮らしとなった。雪折れた花に背を照らされた記憶。時鳥の声に亡き母の夜伽ぎが去来し、空襲の夜の邂逅がよみがえる。つながれてはほどかれ、ほどかれてはつながれ、往還する時間のあわいに浮かぶ生の輝き、ひびき渡る永劫。一生を照らす生涯の今を描く全8篇。古井文学の集大成。

ゆらぐ玉の緒

ゆらぐ玉の緒

 

 

9「名誉と恍惚」松浦寿輝 著(新潮社)

ふるさとなんかどこにもないが、生きてやる。おれの名誉と恍惚はそこにある。日中戦争のさなか、上海の工部局に勤める日本人警官・芹沢は、陸軍参謀本部の嘉山と青幇の頭目・蕭炎彬との面会を仲介したことから、警察を追われることとなり、苦難に満ちた潜伏生活を余儀なくされる……。祖国に捨てられ、自らの名前を捨てた男に生き延びる術は残されているのか。千三百枚にも及ぶ著者渾身の傑作長編。

名誉と恍惚

名誉と恍惚

 

  

10「美しい街」尾形亀之助松本竣介 著(夏葉社)

待望の選詩集。尾形亀之助(1900~1942)の全詩作から55編を精撰。

美しい街

美しい街

 

 

〈ポスト・トゥルース〉アメリカの誕生 ―ウェブにハックされた大統領選

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「〈ポスト・トゥルース〉アメリカの誕生 ―ウェブにハックされた大統領選」池田純一 著(青土社

 “世界”を変える稀有な事件の記録。ソーシャルメディア、フェイクニュース、ハッキング、Alt‐Right…今や世界に浸透したウェブは、これまでとは異なる政治のあり方、もっといえば政権奪取や内政干渉のあり方まで示してしまった。ゲームのルールは確かに書き換えられたのだ。本書は、選挙後「“ポスト・トゥルース”の時代」と名付けられた現代に誕生した、今までとは異なる新たなアメリカを捕まえようとした試みである。WIRED.jpの人気連載「SUPER ELECTION ザ・大統領戦」緊急出版!

 “ポスト・トゥルース”の意味とは「世論形成において、客観的事実が、感情や個人的信念に訴えるものより影響力を持たない状況」とオックスフォード英語辞典に載っています。「情報源としてのソーシャルメディアの台頭と、エスタブリッシュメント(既得権層)が示す事実への不信の増大が概念の土台になっている」(オックスフォード英語辞典代表キャスパー・グラスウォル)と分析されています。

日本社会でおきる社会の変化は、もとを辿るとアメリカの動きから始まる場合がほとんどです。ネットが世界を覆い尽くす未来に放送がどのような形で存在しているのか、放送関係者は情報社会・アメリカの変化に敏感に反応します。

著者の池田潤一さんは 「ウェブ文明論」などインターネットという新潮流により社会が大きく変わりつつあるアメリカを観察し続けているコンサルタント。デザイン・シンカーです。

ウェブ文明論 (新潮選書)

ウェブ文明論 (新潮選書)

 

合わせて注文される関係者も散見されました。