本屋は燃えているか

ブックストアの定点観測

9月の「このマンガがすごい!」ランキング オトコ編

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宝島社「このマンガがすごい!」編集部が運営するマンガ情報サイト『このマンガがすごい!WEB』。選者が選んだ9月のランキングが発表されました。

 

1「Dr.STONE稲垣理一郎

突然謎の光が降り注ぎ、一瞬で人類すべてが石にされてしまう大事件から数千年後、文明が完全に崩壊したなかで、石化から解放された2人の高校生。科学の力を使ってまったくのゼロから再び文明を復興させようとする超特大スケールの物語がここに始動!

2「弟の夫」田亀源五郎

今回の4巻ではマイクの存在を理由に、夏菜の担任から呼び出されてしまう。世間の無意識の偏見に対して、自身も最初は偏見を抱いていた弥一はどう対応するのか……。
そしていよいよ近づくマイクとの別れの日。当初はどのようにマイクと接すべきか悩んでいた弥一が、3週間の共同生活を経てどのような考えにたどり着いたのか。

3「好奇心は女子高生を殺す」高橋聖一

明るくて気さくな柚子原みかんと、まじめだけれど友だちがいない青紫あかね子。正反対な性格の2人が繰り広げるのは、突然無人島に送りこまれたり、電車で乗りすごして土星に到着したり、ゼリー人間と遭遇したりと、毎度毎度の小冒険。

4「約束のネバーランド白井カイウ 作、出水ぽすか

身寄りのない子どもたちを集めた小さな孤児院「グレイス=フィールドハウス」。そこで暮らす少年少女たちはささやかながらも幸せな日々を送っていた……そこが、子どもたちを食料として出荷するための人間農場と知るまでは……!

5「甘木唯子のツノと愛」久野遥子

「透明人間がいる」と主張してクラスのなかで浮いてしまっている、女子小学生。巨大化して怪獣と戦うアルバイトをしながら小学生時代の恩師にアプローチする女子高生、蛇の着ぐるみを着こんで少女を飲みこむ仕事をしているうちに、少女に恋するようになったサーカスの少年。自分たちを置いて姿を消した母親に屈託を抱える、ツノの生えた妹とツノのない兄。

 

6「めしにしましょう」小林銅蟲

人気漫画家・广大脳子(まだれ・だいのうこ)とアシスタントの青梅川おめがが、締め切りもぶっちぎってひたすらウマい料理をつくる人気シリーズ第3巻。漫画家が主役の話なのにマンガの話などはろくにせず、異様な食材と徹夜2日目のようなテンションのシュールなギャグに、キレッキレのいいまわしが飛びかう本作だが、今回もアンコウに巨大タカアシガニ、牛タンの塊といった一般的な家庭の台所には絶対並ばないような食材が盛りだくさん。

7「ワニ男爵」岡田卓也

いまだブームが衰えることもなく、手を変え品を変え、様々なかたちで登場するグルメマンガ。そんな生き馬の目を抜くようなグルメマンガ業界に、新たな傑作が登場!
主人公はなんとワニ! シルクハットに蝶ネクタイと常に正装で物腰柔らかな紳士、アルファルド・J・ドンソンが友人であるウサギのラビットボーイとともに、いろんなお店を食べ歩き。

8「バイオレンスアクション」浅井蓮次 画、沢田新 作

表の顔は専門学校生、裏の顔は殺し屋。二つの顔を持つけれど、いつでもゆるふわな雰囲気だけは忘れないケイちゃんによる、怒涛のアクションストーリー。

9「イサック」真刈信二 作、DOUBLE-S

17世紀前半、舞台は30年戦争まっただなかの神聖ローマ帝国。主人公となるのは恩人の仇を追って、傭兵として単身海を渡ってやってきた日本人・イサック。友も主君もいない土地でひとりの男がスペインの軍勢と渡りあう超骨太エンターテインメント

10「ふたりモノローグ」ツナミノユウ

小学校時代にそんなほほえましい約束をしたひなたとみかげ。しかし気づけば疎遠になってしまいそのまま転校して離れ離れになったのだけど、10年経って高校の教室で、ばったり再会。しかし、みかげはギャルに、ひなたはネクラなオタクにと2人はまったく別世界の住人になっていた。

週間ベスト10 2017.08.29

ランキングです。

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東京堂書店神田神保町店2017/8/29調べの週間ベストセラーです。

 

1「すごいトシヨリBOOK : トシをとると楽しみがふえる」池内紀*1 著(毎日新聞出版

人生の楽しみは70歳からの「下り坂」にあり。ドイツ文学者の楽しく老いる極意。リタイア後を豊かに生きるヒント。

2「日本のテロ : 爆弾の時代60s−70s」栗原康*2 著(河出書房新社

爆弾闘争、内ゲバ、革命運動―あの時代の若者たちはなぜ過激な行動に向かったのか?政治と暴力と文学から考える。時代を知るためのブックガイド併録。

3「nyx 第4号」 (堀之内出版)

第一特集「開かれたスコラ哲学」は古代ギリシア哲学、教父哲学、ルネサンス、近代フランス思想、ドイツ観念論、現代哲学といった諸時代の思潮とスコラ哲学の連関を各分野最前線の研究者が論じる。今回のようにルネサンス以降も含めた仕方でスコラ哲学を開かれた土俵で本格的に論じなおすのは我が国においてはほぼ初めての試みとなる。「政治」を「哲学する」とはどういうことか?その学問的・社会的な存在意義をどこに見出せるだろうか?第二特集では政治哲学を多様なアプローチを含むものと捉えたうえで、各アプローチの明確化と、相互連携(あるいは対立)の可能性を探る。

 

4「埴原一亟古本小説集」埴原一亟 著(夏葉社)

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natsuhasha.com

5「蔵書一代 : なぜ蔵書は増え、そして散逸するのか」紀田順一郎*3 著(松籟社

やむをえない事情から3万冊超の蔵書を手放した著者。自らの半身をもぎとられたような痛恨の蔵書処分を契機に、「蔵書とは何か」という命題に改めて取り組んだ。近代日本の出版史・読書文化を振り返りながら、「蔵書」の意義と可能性、その限界を探る。

 

6「言葉の羅針盤若松英輔*4 著(亜紀書房

手紙、夢、仕事、幸福、魂、旅―。見えないものの中から大切な光を汲み取る、静かな励ましに満ちたエッセイ集。手紙、夢、仕事、幸福、魂、旅―。見えないものの中から大切な光を汲み取る、静かな励ましに満ちたエッセイ集。

7「古典名作本の雑誌 別冊本の雑誌 ; 19」(本の雑誌社

読書の王道。一家に一冊永久保存版!

新刊・エンタメが中心だった「本の雑誌」が、ついに読書の王道に挑む?! 創刊42年、四十にして惑わずということで、読んだフリをしてきた(であろう)古典名作と真正面から向き合う別冊を刊行!

海外は、イギリス、フランス、ドイツなど国やエリア別に、国内は中古、中世、近世、明治など時代ごとに、そしてエンターテイメントは、ミステリ(国内/海外)、SF(国内/海外)、ノンフィクションなど25のジャンルにわけ、強力な評者の元、それぞれ約古典名作を20作ずつ紹介! 年表や座談会など読み物ページも充実。10代の若者から死ぬまでの読んでおきたいと読書回顧の人々まで、永遠不朽のブックガイドが誕生!

 

8「東京の森のカフェ」棚沢永子*5 著(書肆侃侃房)

出かけよう、東京の森へ。そして癒しのカフェへ。豊かな自然に彩られた、新しい出会いの物語、36話。出かけよう、東京の森へ。そして癒しのカフェへ。豊かな自然に彩られた、新しい出会いの物語、36話。

9「エドワード・ヤン : 再考/再見」 著(フィルムアート社)

台北から20世紀末の世界を照らした、エドワード・ヤンとその映画にわたしたちは再会する。没後10年、生誕70年のいま、貴重な関係者証言と充実の論考を一挙収録!台北から20世紀末の世界を照らした、エドワード・ヤンとその映画にわたしたちは再会する。没後10年、生誕70年のいま、貴重な関係者証言と充実の論考を一挙収録!

10「月の満ち欠け」佐藤正午 著 (岩波書店

新たな代表作の誕生! 20年ぶりの書き下ろし あたしは、月のように死んで、生まれ変わる──目の前にいる、この七歳の娘が、いまは亡き我が子だというのか? 三人の男と一人の少女の、三十余年におよぶ人生、その過ぎし日々が交錯し、幾重にも織り込まれてゆく。この数奇なる愛の軌跡よ! さまよえる魂の物語は、戦慄と落涙、衝撃のラストへ。新たな代表作の誕生! 20年ぶりの書き下ろし あたしは、月のように死んで、生まれ変わる──目の前にいる、この七歳の娘が、いまは亡き我が子だというのか? 三人の男と一人の少女の、三十余年におよぶ人生、その過ぎし日々が交錯し、幾重にも織り込まれてゆく。この数奇なる愛の軌跡よ! さまよえる魂の物語は、戦慄と落涙、衝撃のラストへ。

*1:1940年兵庫県姫路市生まれ。ドイツ文学者・エッセイスト。主な著書に『ゲーテさんこんばんは』(桑原武夫学芸賞)、『海山のあいだ』(講談社エッセイ賞)、『二列目の人生』、『恩地孝四郎』(読売文学賞)、『亡き人へのレクイエム』など

*2:1979年生まれ。政治学。2017年、池田晶子記念「わたくし、つまりNobody賞」を受賞

*3:1935年横浜市に生まれる。慶應義塾大学経済学部卒業。書誌学、メディア論を専門とし、評論活動を行うほか、創作も手がける。『幻想と怪奇の時代』(松籟社)により、2008年度日本推理作家協会賞および神奈川文化賞(文学)を受賞

*4:批評家・随筆家。1968年生まれ、慶應義塾大学文学部仏文科卒業。2007年「越知保夫とその時代 求道の文学」にて三田文学新人賞、2016年『叡知の詩学 小林秀雄井筒俊彦』にて西脇順三郎学術賞を受賞批評家・随筆家。1968年生まれ、慶應義塾大学文学部仏文科卒業。2007年「越知保夫とその時代 求道の文学」にて三田文学新人賞、2016年『叡知の詩学 小林秀雄井筒俊彦』にて西脇順三郎学術賞を受賞

*5:1959年東京生まれ。詩の雑誌の編集業を経て現在はフリーのエディター&ライター。書肆侃侃房・東京営業スタッフ1959年東京生まれ。詩の雑誌の編集業を経て現在はフリーのエディター&ライター。書肆侃侃房・東京営業スタッフ

いのち愛しむ人生キッチン

92歳になった今でも教室に立ち生徒に料理を教え続ける料理研究家がいます。

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「いのち愛しむ人生キッチン」桧山タミ 著(文藝春秋

九州地方で活躍する92歳の現役料理家タミ先生の初の著書。
台所に立つ女性の心の拠りどころになるお話が一冊にまとまりました。
タミ塾の愛情レシピも収録。 

7月末に発売されたこの本。92歳という著者の年齢と、現役で教壇に立つ姿。含蓄の富んだ人生の言葉が静かな話題となりました。テレビ制作者としては見逃すはずもなく。さっそく取材が行われ、8月11日のニュースウォッチ9で放送されました。

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著者の桧山タミさんが教えるのは福岡市にある自宅兼教室です。週に3回開かれる料理教室には20代から70代までの女性たちが集まってきます。f:id:tanazashi:20170828163656j:plain
「タミ塾」とも呼ばれるこの料理教室の特徴は、旬の食材を使って料理を作ることです。

 

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桧山さんは1926年、福岡市に生まれました。32歳の時夫が死去。2人の子どもを育てるため、料理教室で生計を立ててきました。料理研究家の故・江上トミ先生のもとで、戦前・戦後を通じ38年間学び、61年に「桧山タミ料理学院」を開設しました。

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目に飛び込んできたのは、見事に整理された調理器具の数々。
でも、どこの家でも見かける、あるものが見当たりません。

桧山タミさん
「文明の利器なんて何もないですから。」

桑子
「電子レンジはありますか?」

桧山タミさん
「使ったことがない。」

桑子
「温める作業には何を使う?」

桧山タミさん
「ごはん?蒸し器に入れて。
昔からあるものがとってもおいしいから。」

72年を境に、フランス料理などの高級料理の指導をやめ、素材にこだわり、昔ながらの日本料理を教え続けています。

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「全部、自分のできる範囲ですればいい。手を入れたからといって、おいしいものではない。“早く食べたい”という方が先だったら、早く出してあげた方がいい。」

生徒が学ぶのは料理方法だけではありません。

料理の知恵だけでなく、長い人生の中で培った生活を豊かにする工夫です。

「時代が変わっていってる。それには反対できない。自分で(実践して)いけるものを見つけないといけない。手は抜いてもいいけど、心っていうのは思いやり。その人に対する思いやりを抜いたらだめ。いまごろのお母さんは忙しいから、なかなかできないけど。忙しいってことは、“心を亡ぼす”という字。言葉じゃないけど、思いやり。」

人と人をつなぐ料理とその中に込められた思いが多くの人の心を掴んで離さないように思います。

91歳が語る“人生のレシピ” - 特集ダイジェスト - ニュースウオッチ9 - NHK

 

「整える、夏。」(ゆるめる)ブックリスト

こころを解き放ち、自身の気持ちと向き合う時間が、生きていく上でとても大切。本と対峙することで、小さな気づきとともに、静かで穏やかな時を感じてみてください。 二子玉川蔦屋家電、食コンシェルジェ大川が選ぶ10冊の本です。

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疲れないからだをつくる 夜のヨガ

呼吸の本

あわいの力

お灸のすすめ

自然ぐすり

生きるための料理

 

腸がよろこぶ料理

香りの扉、草の椅子―ハーブショップの四季と暮らし

よあけ

あおのじかん

見えない涙

高橋ヨシキのシネマストリップ

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高橋ヨシキのシネマストリップ」高橋ヨシキ 著(スモール出版)

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NHKラジオ第1「すっぴん! 」内で放送中の“自称・日本一刺激的な早朝映画コラム"「シネマストリップ」が書籍化。
気鋭の映画ライター・高橋ヨシキが、映画に隠された真の魅力をじっくりと解説して「丸裸」に!
著者自選による33回分の放送を大幅に編集・加筆・修正。
さらに33本の書き下ろしコラムと、小説家・高橋源一郎による解説も収録した、映画ファンも番組ファンも必携の一冊です。

世の中に映画ファンは数多くいます。その上にそびえるのは映画マニアです。彼らは寝てる時間以外は映画やビデオを見ています。さらにその上を行くのが評論家級の映画愛好家です。一度見たシーンや台詞はしっかり記憶し、別の映画と照合しながらその違いを私たち普通の映画ファンにわかるように伝えてくれます。

そうした分類を飛び越えるのが高橋ヨシキさんのような人たちです。

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映画を題材にしたトークや著作がそれ自体独立して作品となり、固定ファンを獲得してしまうところがすごい。ツイートを眺めているだけで映画館が恋しくなります。

twitter.com

そんな出演者を番組に登場させた放送関係者もまたすごい。

映画を見てコラムを読んだらもう一度映画を見たくなるなんて、そんな人生を送れたらご機嫌じゃありませんか。

 

観光立国論: 交通政策から見た観光大国への論点

どこか垢抜けない雰囲気を感じる本。

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「観光立国論: 交通政策から見た観光大国への論点」 戸崎肇 著(現代書館

東京五輪に向けて沸騰する「観光」を問う。元日本航空パイロットならではの現場感覚が冴え渡る。今、最も必要な「観光論」はコレだ!

「売れるか売れないか」といったら「売れない方」といったところ、書店員は「それでも推す」といって面陳することになったのがこの本。

タイトルに「論」を付けたところから、商売を投げたようなオーラを感じます。乗り物が描かれた表紙は子ども向けの乗り物絵本のようにも見えますが、写真が細かく整然と配置されているのでおもしろみもありません。

2020年の東京オリンピックに向けて、官民あげて観光業の成長を企図している日本。しかし、まったく見通しの立たない原発事故の収束、インフラ整備をはじめ、日本の観光は課題山積である。そもそも現在の日本は、世界中からの観光客を迎え入れる条件を満たしているのか?原点に立ち返って深く問い直した画期的な観光論!

五輪を控え、観光の行方は記者たちの話題となるだろうし、勉強好きな人たちは版元の名前に反応するかも知れない。版元のサイトに掲載された紹介やツイートを見て選んだと書店員は主張します。

表紙くらいはもうすこし何とかできたのではないかと思いました。 

 

リクルートの すごい構“創"力 アイデアを事業に仕上げる9メソッド

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リクルートの すごい構“創"力 アイデアを事業に仕上げる9メソッド」杉田浩章*1 著(日本経済新聞出版社

【ステージ1】「0→1」 世の中の不をアイデア
-メソッド1不の発見…新規事業の起点となる「不」を探す
-メソッド2テストマーケティング…発見した「不」がビジネスとして成立するのかを見極める
-メソッド3New RING(インキュベーション)…アイデアを事業に育てるサポート
【ステージ2】「1→10」前半 勝ち筋を見つける
-メソッド4マネタイズ設計…圧倒的な収益を獲得するためのモデル設計
-メソッド5価値KPI…勝ちにつながる行動や指標を発見・特定する
-メソッド6ぐるぐる図…PDSを高速に回しながら、勝ち筋を探る手法
【ステージ3】「1→10」後半 爆発的な拡大再生産
-メソッド7価値マネ…発見した価値KPIに基づき、拡大させていくためのマネジメント
-メソッド8型化とナレッジ共有…価値マネを実践するための行動を「型」に落とし込んで共有する
-メソッド9小さなS字を積み重ねる…現場でつかんだ〝兆し〟を吸い上げる仕組み

ボストン コンサルティンググループのコンサルタントリクルート社の協力を得て社内関係者をヒアリングしてまとめた本です。

 「リボンモデル」「不の発見」「価値マネ」「ぐるぐる図」「価値KPI」・・なんだかよくわからない言葉が共通語として使わるリクルート社。それだけで内部のことをよく知らない人は「すごい会社だ」と圧倒されてしまいます。

「いつだって新しいことは、古いことを言い換えているだけ」と佐藤慶は述べています。「不の発見」にしてもよくよく考えると「不便なことに商機あり」という当たり前のことです。この会社の強いところは、世の中の些細な不便や不満を拾い上げ、商売になるまで解決策を考えること。それを社員が理解して実行する会社だということがわかりました。

リクルートのすごいところは「ゼクシイ」「ホットペッパー」や「R-25」など、消費者が情報を探すときにお世話になる"あのサービス"が、年月をかけた企画ではなく、思いつきのアイデアに近いことを、よってたかって素早く実行するエネルギーと、見込みのないものはすぐ撤退する潔さにあるといいます。著者は実際に担当した人たちの話をもとに、企画がどのように作られるのか箇条書きで分析し、その仕組みを解説しています。成功例、失敗例を知るうちに古い体質の会社ではできないことをリクルートはなぜ可能なのかが見えてきます。

一つ気になったのは、どの会社も抱えるダメな部分・・それは人間が持つ弱さに由来するものですが・・が見えてこなかったところです。それは第三者的な視点ではなく、企業広報的な姿勢から離れられなかったことにあるのかもしれません。

プロジェクトは部局をまたいで大勢の組織や人が関わることが普通です。しかし全員の意思が一つにまとまるなんて全体主義国家のようなことは100%起こりません。何かしら組織の壁。年齢ごとの価値観の差などが道を塞ぎます。困ったことを主張する人だって出てきます。そこが人間組織の面白さでもありますが、ところが本書では社内の人間くささが意図的に脱臭されています。そのため、登場人物たちの立ち居振る舞いがロボットのように画一的な印象なのです。ですから本書を読んで「さあリクルートを真似よう」と頑張っても真似られない部分があることがわかります。

ビジネスマンにとっては「ヒント集でいいのだ」といわれるかもしれませんが、マスコミ関係者にとっては心に響かないところがあり売れ行きが伸びません。そこが本書が抱える限界なのかも知れません。

 

*1:(すぎた・ひろあき) 1961年生まれ、愛知県出身。東京工業大学工学部卒業、慶応義塾大学経営学修士MBA)。日本交通公社JTB)勤務を経て、1994年、BCG入社。2006~2013年、BCGジャパン・システム オフィス・アドミニストレーター(統括責任者)。2007年、シニア・パートナー&マネージング・ディレクター就任。2014年、BCGクライアントチームアジア・パシフィック地区チェア、2016年1月から現職。