本屋は燃えているか

ブックストアの定点観測

宝くじで1億円当たった人の末路

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「宝くじで1億円当たった人の末路」 鈴木信行 著(日経BP社)

「宝くじで1億円当たったら……」。
こんな淡い期待を胸に、宝くじ売り場につい並んでしまうビジネスパーソンも多いのではないでしょうか。
果たして、「宝くじで1億円当てた」後に待ち受ける末路とはどんなものなのでしょうか。

人生で一つの「選択」をした後、どんな「末路」が待ち受けているかよく分からなくて、不安なのだと思います。
だったら、気になる様々な人生の「末路」を、専門家や経験者に取材してしまえばどうか。

タイトルで読ませる本です。おそらくネーミングで手に取り、買っていく人も多いと思います。「人の不幸」は最大のエンターティンメントですからね。したがって店頭に置くと動きの早さを感じます。

日経ビジネスオンラインで最も読まれた記事の1位、2位となった「宝くじで1億円以上当たった人の末路」と「事故物件借りちゃった人の末路」はさすがに面白い着眼点です。一億円当てた人は幸福と言い切れないところにテレビマンは企画の匂いをかぎ取ります。「事故物件サイト」はネットでも検索できるので調べてみると現代社会の闇が見えてきそうです。23のテーマをそれぞれの分野のプロが解説しているので興味を持つ人にとってはその世界に踏み込むときの水先案内人にもなりそうです。

読んでいて違和感を感じたのは、「日本一顧客思いのクリーニング店の末路」とか「アジアの路上生活障害者の末路」など、運命を引き当ててしまった人の末路というよりも、仕事発見といった方が正しいような人まで記事が手を広げていることです。テーマが散漫になってしまうとともに、水増しではないかという気持ちも覚えました。本書の巻末に「隠しテーマは日本社会が持つ同調圧力に背を向けた人に向けたエールでもある」という説明がありましたが"編集"がもうすこし力を発揮すべきだったのでは無いかと思いました。

 

ビンボーの女王

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「ビンボーの女王」尾崎将也 著(河出書房新社

ADを辞め、ネットカフェ難民となった麻衣子が、立てこもり事件に巻き込まれた。ところが全国中継で犯人が予想外の要求をしたことから、「大炎上」が始まる!激増するSNSのフォロワー数、番組に出演させようとする元上司、プロデュースしようとする芸能マネージャー、やがて襲い掛かるバッシング…混乱のなかで、麻衣子は本当に大切なものに気づき始める。母との確執を乗り越えて、麻衣子は幸せになれるのか!?大人気脚本家がおくる渾身の小説デビュー作!

書店のレジ近くに立って新刊本を眺めていると、業務用で本を買う人の多さに圧倒されます。

デザイン関係の担当者がやってきて漫画家のくらもちふさこさんを指名して大量の本を注文したりするのを見ると、彼女の代表作「花に棲む」が近々ドラマ化されるのではないかと期待したりします。

もちろん「ドラマになるのですか」などと質問したりすることはありません。世の中の流行廃りを確認するための資料かもしれませんし、対談などの予備知識を得るための本かもしれません。ただ言えることは放送局にとって本はたべものと同じ栄養源です。生きるために読み続けることが一種の生活習慣となっているのです。

読むことで得た知識や感動は放送をつくる骨格になりますが、中にはその過程を再生産して本屋に還元してくれる人もいます。

 「梅ちゃん先生」「お迎えデス。」 「結婚できない男」など今をときめくドラマを数多く生み出してきた脚本家が書いた小説デビュー作は、番組ADが主人公。破天荒な出来事に翻弄される物語には放送局内の人間関係が透かし彫りのように埋め込まれています。貧困女子というキーワードもしっかり押さえたエンターティンメント。人間観察がこの仕事の生命線であることがよくわかります。 

 

 

男が痴漢になる理由

人間の根源的な欲望の中に取扱が難しい障害があります。それが"性依存症"です。性にまつわる行動が自分の意志でコントロールできなくなることをさします。性嗜好障害(性依存症・セックス依存症)と呼ぶ精神疾患です。

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都心の駅前に建つ精神科のクリニック。

うつや認知症などの悩みを抱えた人やアルコール、ギャンブルなどに悩む人たちを支えるアジア最大規模といわれる依存症施設です。

www.enomoto-clinic.jp

"都会のど真ん中"に依存症に悩む人たちの生活の場があった!|健康・医療情報でQOLを高める~ヘルスプレス/HEALTH PRESS

ここでは患者は毎日決まった時間にさまざまなプログラムを受けて時間を過ごします。

"依存症"は脳内に発生する快楽物質の影響を受け、行動をコントロールできなくなる精神障害の一つといわれています。治療を受ける人の中には「痴漢」などの性にまつわる問題を起こした人も少なくありません。

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「男が痴漢になる理由」斉藤章佳 著(イースト・プレス

著者はこの施設でソーシャルワーカーとして働く精神保健福祉士社会福祉士です。アルコール依存症を中心にギャンブル・薬物・摂食障害・性犯罪・虐待・DV・クレプトマニアなど様々な悩みを抱えた人たちの問題に携わってきました。

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斉藤さんは「痴漢の多くは、勃起していない。痴漢の多くは、よき家庭人である」と捉え、研究・啓蒙活動に取り組んでいます。

数多く加害者を見てきた性犯罪・性依存症の専門家が治療の現場からの視点でまとめた痴漢の実態と問題解決への貴重な提言です。

ひとりビジネスの教科書: 自宅起業のススメ

番組づくりを支える力は人にものを伝える情熱です。

情熱の沸点が低い人、つまり世の中の動きに感度の高い人ほど、フリーとなって自立する傾向が強い仕事ともいえます。

少し前までは独立しても生計を立てるのはなかなか難しい時代もありました。非正規雇用が当たり前となった今、スキルを売り物に自分の力で情報発信の道を目指す人も増えています。

自己啓発本の中でも注目を集める分野が自宅起業をテーマとした本です。 

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「ひとりビジネスの教科書: 自宅起業のススメ」佐藤伝 著(学研マーケティング

会社を辞めなくても、貯金がなくても始められる!「自分らしい自宅起業」で、お金と自由を手に入れる方法。

「ひとりビジネス」すなわち、自宅起業について書かれた本です。スキルがなくても広い人脈を使ってセミナーを開いたり、セミナーの広告を打ったりと成功している事例をもとに、自分という「売り物=商品」の作り方をまとめています。

http://mandalanikki.com/common/img/product/dmap/example03.gif

注目するのは筆者が提唱する「行動習慣」の改善策です。

「問題解決9マス・ノート」*1はなかなかおもしろい提案です。方形の枠の内側に9つのマス目をくぎり、真ん中に日付を置いてその周辺の8マスに目標を描きます。その目標をテーマに日記を書くというだけのものですが、筋トレを続けるような意思が必要です。

また、起業を支える経理作業についても、「経理は午前中に片付ける」など具体的に描かれています。章立てがシンプルなので1時間ほどで読み切れる内容です。

satohden.com

筆者の「みんなにひとりビジネスを通して、やりがいや豊かさを手にしてほしい、みんなに成功してほしい」という思いが感動的です。

 

*1:自宅で学べる「行動習慣ナビゲーター認定講座(Dream Navigator®)」は、超・人気講座

人類の祖先はヨーロッパで進化した

どうしてサルから進化した人類が体毛を失ったか?

NHKスペシャル「病気の起源」を見ると人類の辿った数奇な運命はドラマのようにピンチとチャンスの連続だったことがよくわかります。

人類史をめぐっては様々な視点から世界中の学者が新たな知見を提供してくれるので、ちょっとしたファンが付いているジャンルでもあります。

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「人類の祖先はヨーロッパで進化した」デイヴィッド・R. ビガン 著(河出書房新社

ヨーロッパからアフリカへ逆戻りして、人類が誕生した! 人類誕生以前の、3000万年にわたる知られざる類人猿の進化を明かす!

第1章 初期の類人猿
第2章 出アフリカ―アフロピテクスとその仲間
第3章 世界に出る―ヨーロッパに広がった類人猿
第4章 故郷へ再び―新しいアフリカ=ヨーロッパ系類人猿
第5章 東と西の大分裂
第6章 イースト・サイド・ストーリー―ヒトの従姉妹であるシヴァピテクスとオランウータン
第7章 ウエスト・サイド・ストーリー―ヨーロッパのアフリカ類人猿
第8章 ドリオピテクスの末裔
第9章 再びアフリカへ

アフリカに端を発したとされる人類の祖先・類人猿は、アフリカを出てヨーロッパやアジアに拡散したとされています。その過程で二足歩行や肉食生活などを獲得し、頭を働かせて生活する形になっていったようです。やがて文明を育んだ人類の祖先の生き様を巡って、グローバリズムという流れの中で再評価が起きています。しかし、偏狭な人種至上主義の動きにも目が離せません。

文明を文化に置き換えてみると,世界には多種多様な民族が固有の文化を継承しており,それらに優劣があるはずもありません。  人類の進化と拡散

原点に返ってものを見ることの大切さを感じる本といえそうです。

 

オウンドメディアのつくりかた

ひと昔前までよく見かけた「続きはWEBで」という広告。最近あまり見ませんよね。

それは、企業や個人が自分の力で情報を発信する力をつけてきているからだと言われます。

「マスメディア」に対して、自分たちで運営する「オウンドメディア」が身近なものになっているのです。

長らくその運営に携わってきた著者が出版したのがこの本。

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「オウンドメディアのつくりかた 「自分たちでつくる」ためのメディア運営」鷹木創 *1著(ビー・エヌ・エヌ新社)

良くも悪くも話題に事欠かないオウンドメディア。ウェブ上でメディアを立ち上げる技術的なハードルが下がったことで、様々なメディアが生まれる一方、正確性や倫理性の観点から多くの問題点も指摘されています。では、どうやったら、読者から愛されるメディアを、「自分たちで」つくり、続けていくことができるのでしょうか?

本書は、アイティメディア(誠Biz.ID)、Engadget日本版をはじめ、数々のメディアの立ち上げ・運営に携わってきた著者による、自社でコンテンツを生み出し、読者に喜ばれるメディアに育てていくための現場のノウハウをまとめたものです。

事情を知らない人にとって、ウェブコンテンツの制作にかかる費用は、寿司屋の時価と同じようなものといえます。見積もり書に書かれた中身が想像できないことに加えて、作業内容もコンテンツ制作者の思うがままに決まってしまうからです。

閉じた世界の中ならば時価が通用するかも知れませんが、広く普及させるには著者が指摘するような問題点を乗り越えて行かねばなりません。

たとえば経費の実例として、カメラマン(100カット)2万円、ライター2万円、イラスト3千円/枚など、一つの記事を書くために必要な事例を著者は具体的に書いています。こうした現場の人が持つリアルな値頃感が説得力を持ちます。

オウンドメディアの仕事を目指す人だけでなく、読者に信頼されるサイトをめざしたりする企業や組織の担当者が目を通しておくべき本といえるかもしれません。

https://www.facebook.com/so.takaki

 

*1:2006年5月、アイティメディアに転職。ビジネス情報サイト「Biz.ID」の立ち上げに携わる(同年6月)。「3分LifeHacking」「達人の仕事術」などを担当。2009年4月に誠ドメインに統合、「誠 Biz.ID」に名称を変更。同時に編集長を拝命。2013年4月、誠 Biz.IDの編集長職を後任に譲り、6年間務めたアイティメディアを退職。米ブログメディアの雄、Engadget日本版の編集長に着任し、現在に至る。

地頭力を鍛える

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地頭力を鍛える」細谷功 著(東洋経済新報社) 

地頭力」ブームを巻き起こしたベストセラーが待望の電子書籍化!!

「日本全国に電柱は何本あるか?」といった例題やその解答例から「フェルミ推定」のプロセスを紹介しつつ、「好奇心」「論理的思考力」「直感力」という地頭力のベースとそれらのベースの上に重なる仮説思考力、フレームワーク思考力、抽象化思考力の3つの構成要素とその鍛え方を解説。

「問題解決」を必要とする業務に携わるビジネスパーソンはもちろんのこと、本当の意味での創造的な「考える力」を身につけたいすべての人に贈る、知的能力トレーニングブック。

フェルミ推定*1を解くことを通じて思考の効率を高める"自己啓発書"です。

放送局では、ふだん想像も付かないような世の中の大問題に直面することは珍しくありません。担当者は放送日までに視聴者に対して説得力のある番組をつくらなくてはならないわけですから、本書でいう"地頭"を強くする努力が求められます。

幸いなことに、放送は共同作業であることから、問題が大きくなればなるほどその番組を支えるスタッフは増員されます。一人で思い悩むことはないのです。ここで大切なのは持論にこだわらず議論を受け入れ、情報を開示するという姿勢です。どんなに苦しくても放送は出ます。「三人寄れば文殊の知恵」という解決策が生まれなかったことはありません。

地頭力を鍛える

地頭力を鍛える

 

 

*1:フェルミすいてい、英: Fermi estimate)とは、実際に調査するのが難しいようなとらえどころのない量を、いくつかの手掛かりを元に論理的に推論し、短時間で概算することを指す。フェルミ推定で特に知られているものは、「アメリカのシカゴには何人(なんにん)のピアノの調律師がいるか?」を推定するものである。これはフェルミ自身がシカゴ大学の学生に対して出題したとされている[6]。80年代90年代のアメリカ企業の採用活動でよく行われていた。