「未来の年表 人口減少日本でこれから起きること」河合雅司 著(講談社)
新刊本かと思ったら、全面カバーのオビが掛かった旧刊本でした。
最近、こんな売り方している本が多いです。
ビジュアルで理解できる日本初の総合的救命ハンドブック
萌えキャラの表紙にちょっと油断してしまいます。
艦これやガルパンとかぶる気がするからかもしれません。
ページをめくると楽しい気分は吹き飛びます。
これはいざという時役に立つマメ知識・・というより方法。
つまり、戦闘やテロ、大災害で負傷した人たちにどのような医療・支援をのかがわかる実用書だからかもしれません。
非常事態のプロが著した戦闘・災害時のサバイバルハンドブック。
https://hobbyjapan.co.jp/books/author/a161644.html
著者の照井資規氏*1は、医学生や自衛官・警察官を中心に世界最新の戦闘外傷救護・救命技術、テロ対策医療を伝える現代の戦傷医療に関するスペシャリストです。具体的かつ専門的な内容が豊富なイラストでわかりやすく解説されています。
・戦闘やテロにおける死因(どうなると人は死ぬのか/何分で死ぬのか)
・プレートキャリア、ヘルメットなど装備による予防効果と正しい着装法
・大出血から命を救う止血帯と圧迫包帯の使用法
・大出血からの救命・胸部外傷からの対応をフローチャート形式で解説
・爆弾テロなど同時に多数の負傷者が発生した場合の対応メソッド
ミリタリー愛好家を想定しているのか、
戦闘やテロに巻き込まれたときの戦傷医療に多くのページが割かれています。
しかし、読み進むうちに非常事態を想定した実用書であることが見えてきます。
どうすれば非常時に多くの人の命を救うことができるのか、
真剣に向き合ったマニュアル本なのです。
著者が理事長を務めるTACMEDA 協議会は国際レベルのテロ対策外傷救護、医療や戦傷医療の総合教育事業を行う団体です。
戦傷医療という耳慣れない分野ですが、知っていて損はない救命の知識が学べます。
爆弾が破裂して負傷したりするケースは紛争地帯やテロの現場にかぎられます。
そのため遠い世界のように思いがちですが、
大規模災害に見舞われて多くの人が死傷するケースも含まれると聞くと、
決して人ごとではありません。
草津白根山の噴火で見たように、
現場では逃げる人の上に噴石が雨のように降り注ぐ様が記録されていました。
地獄絵図のような現実はいつおきるかわからないのです。
災害が発生した時、適切な行動と対応を取れるかが肝心です。
救急現場においては一刻も早い対応が人命を守ることに繋がります。
・頭部外傷への処置 ・頸部外傷への処置/頸椎の安定化 ・目の損傷への処置
・手足からの出血への止血(手足が残っている場合/離断した場合)/四肢結合部の止血・骨盤損傷への処置
・気道確保 ・胸部外傷 ・腸管脱出 ほか
(本書は医師や救命士を待つ時間の無い致命的外傷に対して、全ての人が行える初歩的で実践的な技術を掲載)
必要最小限の手当が生死を分けます。
そのことを知るだけでも価値がある一冊だと思います
いまやテレビや映画の原作供給源としてなくてはならない存在が漫画。
キャラクターや物語、背景美術も含めて、漫画家の荒木飛呂彦さんは「総合芸術だ」と述べています。
視点を変えると、漫画家のみなさんは映画をよく見ています。
印象に残った映画の場面を膨らませ、作品づくりに活かしているのです。
では、漫画家の皆さんは、作品において「映画的手法」をどう考えているのでしょうか。
この本は、誰もが気になる漫画家の視点に立って映画と創作の関係をまとめた本です。
登場する漫画家の中で、老大家といえるのは松本零士さんあたりでしょうか。
「漫勉」の読後感に似た創作現場の質感を感じることができます。
フィルムアート社の本はこの書店の鉄板出版社です。
当店の読者層のツボにはまるような企画で注目を集めています。
無印良品で扱っている商品のなかには、
本来想定していた使い方ではない使い方ができるものが数多くあります。
例えば、店に行くたびに購入してしまうのが「ポリプロピレンファイルボックス」。
書類などを綴じ込んで本棚などに収納する商品です。
かなりの容量があることに加え、並べると倒れない。
ラベルを貼るだけで中身がわかる。
余計なデコレーションがないだけ、見た目にもやさしく視界が整理できます。
隙間なく棚を埋め続けるファイルボックスを見て、
最近は、書類だけではなく様々な小物を放り込んで管理するようになりました。
著者の勝部健太郎さんは「カスタマイズ」と「共創」は別物であるといいます。
「新しい買い物」では、企業と「買う人」のかけあいが大切なのはまちがいないけれど、それはいわゆるカスタマイズとはちがうといえるかもしれません。
カスタマイズは一見すると、「買う人」とのコラボで新しい価値をつくっているように思えますが、実際のところは、企業があらかじめ想定した範囲内のバラエティです。
結局のところ、企業主導の価値創造の域を出ていないものが少なくないし、企業と「買う人」との共創とはいえないと思います。
企業が提供する価値を超えた使い方をユーザーが作り出して楽しむ。
そんな提言をこの本は、かみくだいて伝えてくれます。
「黒いインク」と呼ばれる酸化トマト。
古くなって酸化が進み、腐ってしまった濃縮トマトを使った商品のことを言うのだそうです。
「産地偽装」、奴隷的に安価で働かされる労働者。
トマト缶の生産と流通の裏側をリポートした本です。
食品の安全性に対する疑惑は繰り返し報道されてきました。
最近静かになったと思ったら、トマトにも疑惑が浮上してきたようです。
ただ、食の安全は消費する側から見るだけでは足りません。
生産者側のつぶやきも掘り起こさないと欠席裁判になりかねません。
生産者は自分に都合の悪いことは隠す傾向がありますが、どこからか話題は漏れます。
気になって「酸化トマト」を検索してみましたが、本書以外の記事は見当たりません。
国内でも消費生活センターなど、情報が集まる公の機関があります。
「安全」は定量的に手に入れることはできますが、「安心」は具体的に手にすることはできません。
慌てず騒がず、裏を取ることが安心に繋がります。
「わたしの政治への関心は、ぜんぶ託児所からはじまった。」英国の地べたを肌感覚で知り、貧困問題や欧州の政治情勢へのユニークな鑑識眼をもつ書き手として注目を集めた著者が、保育の現場から格差と分断の情景をミクロスコピックに描き出す。
2008年に著者が保育士として飛び込んだのは、英国で「平均収入、失業率、疾病率が全国最悪の水準」と言われる地区にある無料の託児所。「底辺託児所」とあだ名されたそこは、貧しいけれど混沌としたエネルギーに溢れ、社会のアナキーな底力を体現していた。この託児所に集まる子どもたちや大人たちの生が輝く瞬間、そして彼らの生活が陰鬱に軋む瞬間を、著者の目は鋭敏に捉える。ときにそれをカラリとしたユーモアで包み、ときに深く問いかける筆に心を揺さぶられる。 著者が二度目に同じ託児所に勤めた2015-2016年のスケッチは、経済主義一色の政策が子どもの暮らしを侵蝕している光景であり、グローバルに進む「上と下」「自己と他者」の分断の様相の顕微描写である。移民問題をはじめ、英国とEU圏が抱える重層的な課題が背景に浮かぶ。 地べたのポリティクスとは生きることであり、暮らすことだ──在英20年余の保育士ライターが放つ、渾身の一冊。
現実社会に潜む矛盾や軋轢はいちばん弱いところに端的に表れます。
物事に例えるなら、ボールベアリングのベアリングです。
書名の持つ「階級闘争」の固い印象とは異なったアナーキーな活力やからりとしたユーモアが救いとなる異色のルポです。
ベアリングの具合を眺めつづけることがジャーナリストとしての基本姿勢の一つであることをこの本は教えてくれます。 もちろん「虫の眼」のように現場を見続けることだけでなく、大所高所から「鳥の目」を使って敷衍することも大切です。
通信技術の進歩で誰もが大所高所から情報を発信することが可能になった今、現場に寄り添い現場でしか見えないことをすくい取る試みが若干薄くなったような気がします。
生きることを見つめる姿勢の大切さを改めて教えてくれる本です。