本屋は燃えているか

ブックストアの定点観測

ブルータスが推す 危険な本屋大賞2016 カストリ書房

ブルータス「危険な読書」で紹介された危険を取り扱う書店。一番危なかった本とは何か書店員に聞きました。

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「カストリ書房」*1台東区千束4-11-12。遊郭・赤線関連の書物も扱い、風俗にちなんだオリジナルステッカーなどのグッズも。

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「なぜここだけ、異質な空気が流れているのか知りたくなって、全国の赤線街もフィールドワークするようになった」というのがカストリ出版創業者の渡辺豪さん。渡辺さんが吉原の風俗街にオープンしたのがこの店です。 

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「昭和エロ本 描き文字コレクション」橋本慎一 著(カストリ出版)

昭和4年生まれ、今年87歳の現役描き文字職人 橋本慎一氏が、昭和30年代以降、新樹書房『週刊特報』『漫画Q』を中心に手掛けた、貴重なエロ本の描き文字コレクション集。

橋本慎一氏インタビュー
昭和一桁生まれの現役描き文字職人 橋本慎一氏へ、取り下ろしインタビュー。これまでの経歴や新樹書房での描き文字職人に至るまでの軌跡を聴き取り。

■『漫画Q』創刊号からの「エロ挿絵」を附録
〝最狂のエロ本〟と名高い、新樹書房『漫画Q』で挿絵も手掛けていた橋本慎一氏作による目次ページ挿絵を特別附録。現在では極めて入手困難な『漫画Q』創刊号から約30点の挿絵を収録。

藤木TDC・解説
昭和文化・風俗史に造詣の深い、藤木TDC氏による「描き文字」の分かりやすい解説。

■比嘉健二・初エッセイ
稀代のサブカルチャー誌編集長 比嘉健二氏にとって初となる、書き下ろしエッセイ『あい竜太郎』を収録。
 エロ本や実話誌を手掛けてきた比嘉氏がこれまで見てきた〝忘れられた天才描き文字職人〟のエピソード。

kastoripub.stores.jp

 

「赤線全集」渡辺寛 著(カストリ出版)

戦後の色街〝赤線〟──

全国350箇所もの売春街をルポタージュした唯一無二の奇書『全国女性街ガイド』。昭和30年、その『全国女性街ガイド』発行後ほどなく消息を絶った謎の作家、渡辺寛が遺した赤線ルポタージュの数々がついに集成&復刻。

家族へのインタビューに成功。半世紀を超えて渡辺寛の半生が明らかになる。

本人直筆のプライベート日記を別冊収録。『赤線跡を歩く』の著者、木村聡氏を迎えての座談会など、圧倒的なボリュームと多面的な角度から、〝渡辺寛・赤線史〟を辿る決定版。 

kastoripub.stores.jp

「全国遊廓案内<復刻付録版>」日本遊覧社 編(カストリ出版)

遊廓を網羅した『全国遊廓案内』を完全復刻! 昭和5年(1930)に発行された当著は、当時の外地(台湾、朝鮮、関東州)を含む日本各地250超の遊郭を紹介しており、遊里史を知る上で第一級の史料です。

全国遊廓案内<復刻付録版>

全国遊廓案内<復刻付録版>

 

 

カストリ出版のあやしい出版物 

全国女性街ガイド

全国女性街ガイド

 
全国花街めぐり(上巻)

全国花街めぐり(上巻)

 
温泉・女・風土記

温泉・女・風土記

 
諸國廓巡禮

諸國廓巡禮

 
全国花街めぐり(下巻)

全国花街めぐり(下巻)

 

 

*1:遊廓・赤線・歓楽街といった遊里史に関する文献資料を専門に販売する書店。店主の渡辺豪さんが2011年前後から余暇を利用して遊廓・赤線跡の同定、撮影、聴き取り取材などを始め、2015年前職を辞し、出版社「カストリ出版」を立ち上げ、そこで発行する遊廓文献を販売するために書店「カストリ書房」をかまえ今に至ります

ブルータスが推す 危険な本屋大賞2016 模索舎

ブルータス「危険な読書」で紹介された危険を取り扱う書店。一番危なかった本とは何か書店員に聞きました。

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タコシェ*1中野区中野5-52-15中野ブロードウェイ3階。作家持ち込みの本も販売。

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店主の中山弓さんが2016年に虜になったのが「HERE」リチャード・マグワイア 著でした。何度読み返しても新たな感慨に浸れる本だそうです。

「HERE」リチャード・マグワイア 著(国書刊行会

今まで誰も読んだことがない文学
誰も見たことがないアート
まったく新しい哲学
がここにある

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窓と作りつけの暖炉のほかには何もない部屋、左上には2014年という数字。ページをめくると、1957・1942・2007……と様々な年代の同じ空間が現れ、さらに異なった年代の断片が共存・混在していく。そして紀元前30億50万年から22175年まで、ある家族の記憶の数々が地球の歴史と一体となって圧倒的なビジュアルで奏でられていく――リチャード・マグワイア『ヒア』はある部屋の一角の物語であり、地球の黎明期から遥かな未来まで、この空間で起こる無数の出来事の物語である。

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コミック形式の画期的なヴィジョンの完成形として、このジャンルの最大の発明家の一人が送りだす、まったく新しい文学、究極のグラフィック・ノヴェル/アート・ブック、そして深遠なる哲学の書にして驚異の書物がついに登場! *日本版特別附録:1989年オリジナル版・2000年版「ヒア」と、クリス・ウェアのエッセイなどを収録。

HERE ヒア

HERE ヒア

 

「約20年前に描いた6ページの雑記記事を一つの作品に発展させた作者の姿勢や器量に感動です。一生モノの本と出会えた気がします」  中山弓さん

https://mobile.twitter.com/MasatoHARA/status/809352171116318720

原正人(バンド・デシネ翻訳)‏ @MasatoHARA

 

「極限の表現 死刑囚が描く―年報・死刑廃止」年報死刑廃止編集委員会 編(インパクト出版会

特集・ 極限の表現 死刑囚が描く

〈悪人〉を愛する 死刑囚と交流して60年 加賀乙彦(聞き手・太田昌国)

アールブリュトと死刑囚の絵画展
   鞆の津ミュージアム      櫛野展正
枠を越え、埋め尽くす
   大道寺幸子基金絵画作品八年の歩み 北川フラム 
響野湾子詩歌句作品集 池田浩士選 
応募詩歌句作品アンソロジー
  西山省三、後藤良次、音音、林眞須美
大道寺幸子基金表現展 小説・自伝・エッセイ全受賞作紹介
応募資格は死刑囚、そしてその表現
   第八回「大道寺幸子基金・死刑囚表現展」 川村湊
死刑映画を観る  中村一成

 閉ざされた空間からの、精神の出口を求めて 大道寺将司 

「報道される”犯人”というイメージとは別の顔が垣間見られます。尋常ではない集中力や美的感覚が見て取れたりするので、眺め返すたびにドキッとします」 

「かなわない」植本一子 著(タバブックス)

2014年に著者が自費出版した同名冊子を中心に、『働けECD〜わたしの育児混沌記』後5年間の日記と散文で構成。震災直後の不安を抱きながらの生活、育児に対する葛藤、世間的な常識のなかでの生きづらさ、新しい恋愛。ありのままに、淡々と書き続けられた日々は圧倒的な筆致で読む者の心を打つ。稀有な才能を持つ書き手の注目作です。

かなわない

かなわない

 

写真家の著者が結婚、家族、愛への苦悩を綴ったエッセイ。「自分の打算とか弱さとか、本当なら隠したい気持ちを書いてしまう誠実さがすごい」 

*1:オルタナティブ系漫画、一般流通にのらない自主制作本やアーティストブックを扱う書店。店内で展示やサイン会などのイベントも開催。サブカルチャーのメッカ、中野ブロードウェイにある本屋さん。マンガ雑誌『ガロ』のアンテナショップとしてスタートし、自主制作の本やzine、一般流通にのらない書籍、インディーズ系CDや映像、絵画、雑貨などを取り扱う。アーティストや漫画家、イラストレーターとのつながりも深く、作品の展示、関連書籍のフェア、サイン会などイベントも開催。その他、それらの作家とコラボしたオリジナルの本も出版している。

渋谷パブリッシングブックセラーズが熱い

放送局員や制作プロダクションの人たちがよく利用する書店が近くにあります。SPBS(SHIBUYA PUBLISHING BOOKSELLERS渋谷パブリッシングブックセラーズ)というお洒落なブックショップです。

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渋谷の東急本店脇の通りを富ヶ谷方向にずんずん歩いて行った左側にあります。量販店とはまったく違った選書が特徴のこの書店は、元プレジデントの編集者がつくった書店だそうです。店内はジャンルごとにセレクトされた5千冊の書籍に加え、自分たちがデザインした商品が並べられています。また時折ワークショップが行われたり自社で出版も行ったりとユニークな活動を続けているので、若いお客さんを中心に人気です。

店舗マネージャーの鈴木美波さんは1987年生。大学在学中からSPBSの運営に携わり、入社。2012年から店長を務める本のキュレーターです。 

本屋さんって、本がありすぎて選べない、という声をよく聞くんです。私自身もかつてはそうでした。ならば、若葉マークな人たちが、本の海でおぼれないような空間があるといい。そんな考えから、渋谷のはずれでセレクト書店SPBSを続けています。本の隣に服やバッグやアクセサリーを並べたりして、めざすは「入り口の書ログイン前の続き店」。気軽に立ち寄ってもらえるように、本屋の敷居を下げたいんです。(2016年10月19日朝日新聞) 

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北に面した全面ガラス張りの店舗は開放感が抜群。柔らかな外光が書籍を優しく包み込みます。文化・芸術・デザイン系の書籍が充実している感じがします。棚は 「ボーイ・アンド・ガール」「食」「東京」など九つの独自ジャンルに区分けされ、本と本の内容が緩くつながって興味の動線が途切れずにならび、書籍との出会いが楽しめる構成になっています。 

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あるとき、「ベタベタな恋愛小説はありませんか」と聞かれたんです。取り扱いがなかったので、代わりに三島由紀夫の「音楽」を薦めました。ベタベタというよりドロドロの作品なんですけど、後日「おもしろかった」と言ってもらえて。常連さんだと好みを覚えているので、次はこれをと、さりげなく棚に差しておいたりします。黙っていても、その本を選んでくれたことが3回ほどありました。

この書店の特徴は、随時開催されるイベント・ワークショップです。著者を囲んだ座談会や編集者によるトークイベントは本を売る店というより、本や文化を育む店という雰囲気を感じます。

買ってもらえるのは、お客さんの気持ちと店側のアンテナがシンクロしたとき。天気や気分やノイズも含めて、その瞬間、この空間だから選んでくれる。それは、どんなアルゴリズムからも生まれない答えでしょう。そんなふうに即興のジャズ演奏のように本を届けられたら、と思っています。 

書店員に聞くと「本は衝動で買う物」なのだそうです。あらかじめ、これを買おうと本屋を訪れる人より、面白いものを探して立ち寄る人が圧倒的に多く、その興味にどう答える店作りをするかが売れ行きを左右するのだそうです。そう考えると「ありすぎて選べない本屋」ではなく、「本の海におぼれない空間づくり」という考え方はまっとうな考えだと思います。

 

荻窪のtitleで本を買う

荻窪の小さな書店titleまで足を伸ばしました。

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場所はJR荻窪駅から青梅街道沿いを10分ほど歩いたところにあります。扱っている本はすべて新刊本。小さな店内には放送局員が手に取りそうな本が並んでいます。30代前後の若い人が出入りしていて地元に密着した書店であることもわかります。

www.haconiwa-mag.com

店の奥はコーヒーカウンターになっています。急な階段を上った二階はギャラリー(高橋彩子さんの作品が展示中)。店の入り口ではリンゴの試食販売も実施中でした。

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店長の辻山良雄さんと雑談。変な話ですが、店に一目惚れしてしまいました。その訳は棚を見ればわかります。

普通の書店は地域ごとの販売実績データをもとに版元から届く配本をそのまま並べます。客層に逢わない本も入っているため、そのままだと店の個性は出にくくなります。ここでは、並べたい本が品切れすると知り合いの取次や出版の担当者と直接連絡を取って補充することもあるのだそうです。 

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このスペースに、コミックはないだろうと思ったら、奥の棚に、萩尾望都諸星大二郎がいました。壁には松本大洋のナンバー入りの作品があります。探していた「夕凪の街桜の街」こうの史代著を発見しました。本作は文化庁メディア芸術祭大賞を受賞した漫画です。 

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本のトビラの折り返しに、好きな言葉は「私はいつも真の栄誉をかくし持つ人間を描きたいと思っている」(ジッド)とあります。

そうやって人生を歩んでいる中でそれぞれ大切にしている本があります。それらの本は本屋さんの何処かに並んでいる。これって本屋はそのまま「その人が生きるということ」につながっているということだと思うんです。(辻山良雄さん

http://bookshop-lover.com/blog/post-13118/

著者のことばと書店のことばがシンクロする書店。荻窪の読者がうらやましいかぎりです。

さて、ほんとうに欲しかったのこうの史代さんの著作がもう一つあったのですがこちらは取り寄せのようです。原作を読みたかった。彼女の作品がアニメ化され近々公開されます。

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劇場版「この世界の片隅に」。平凡な日常の持つ尊さが、カットから伝わってきます。

www.makuake.com

噛みつかれた、Amazonの読み放題サービス「Kindle Unlimited」

Amazonの読み放題サービス「Kindle Unlimited」。

本サービスは月額980円(税込)で和書12万冊以上、洋書120万冊以上のKindle電子書籍が読み放題になる、新しい定額読み放題サービスです。
書籍、コミック、雑誌を含む和書12万冊、洋書120万冊以上がお手持ちのiOS/AndroidスマートフォンタブレットKindle電子書籍リーダーやFireタブレットで読み放題に

https://www.amazon.co.jp/gp/press/pr/20160803

しかし、話はそう旨くいくものでもなさそうで、昨日まで読み放題リストに上がっていたものが突然消えてしまうこともあるようです。(日本の読者から見ると、洋書が120万冊あると胸を張られても、和書の数の方が肝心だと思います)

moneyreport.hatenablog.com

驚いたのは、このサービスに書籍を提供していた大手出版社がクレームをつけたことです。利幅が薄くても、購読者が増えれば出版社の懐に入る利益は大きくなるはず。なのになぜかと、ことの経緯を調べると、

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サービスをはじめたAmazonは、本が売れすぎたことを理由に、講談社の書籍を無料ダウンロード対象から外し、さらには同社の抗議を受けると1000タイトル以上の同社書籍すべてをサービスから削除したというから驚きです。

アマゾン側から「想定以上のダウンロードがあり、出版社に支払う予算が不足した」「このままではビジネスの継続が困難」などの説明があったとしている。出典:朝日新聞

記事を読む限り、見込みの甘さが原因にあったというのもお粗末です。訴訟に長けた欧米企業ですから契約書の片隅に小さくわかりにくい文章で、免責の一文が残されているのでしょう。出版社側も契約書をしっかり見なくてはいけません。

配信停止を巡る騒動は今に始まったことではありません。以前、別のサービスで「買ったはず」の電子書籍が配信側の都合でサービスから外され、読めなくなったという記事を見ました。紙の書籍は購入すると、購入した者の所有物になります。だから読み終わった書籍を古書店に売ったりできます。しかし、電子書籍はその書籍を読む権利を借りるにすぎません。紙の本を売る書店の側から言えることがあるとすれば、買ったのではなく、借りたはずの本は、配信側の都合で読めなくなる危険がつきまとうと、最悪の事態を踏まえた上で利用する姿勢が肝心だと思います。

記事を読む限り、消されたタイトルが何かがわかりません。利用する読者の反応も聞こえてきません。無料購読された大量の本の正体がわかれば、業者間の泥仕合の真相が分かるかも知れません。(憶測でものを語るのはつつしむべきことですが、異常に売れたのはおそらくH系の本だった!と勝手に想像しています)

続・最後の秘境に行ってきた

土曜日ということもあるのでしょう。大学構内は静まりかえっています。書籍「東京藝大」によると、陶芸科のようにほぼ徹夜で作業を続ける学科もあるため、美校の門限はあってなき状態だと描かれていました。

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それにしても人がいません。通りがかりの学生にたずねると、「今日はみな上野公園に行っているはず」という返事です。今年の藝大祭*1はすでに終了したはずなのに、いったい何が起きているのでしょう。

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上野公園まで探りにいくことにしました。音大側の通りは"ハイカラ"なカフェや”シュッとした”カップルが肩を組んで談笑しています。美大側を歩きましょう。道すがら藝大にはもう一つ門があることを発見しました。工事中で閉鎖されています。通用門でしょうか。

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上野公園までの道中は森の中を抜けていきます。ドイツの黒い森のようです。

途中発見した踊る集団。路上ダンスをしています。観客はいません。年齢から見ると学生さんっぽく見えますが、外国風の方もいます。藝大生ではないと見た目に決めつけられないところに奥の深さを感じます。f:id:tanazashi:20161004175812p:plain

やや立ち止まって見ていると、ギャラリーが一人現れました。袋と傘を抱えている姿から想像するに、このあたりの住人さんかもしれません。でも本当は違って美大の教授かも知れません。いや、それは思い過ごしで住人かもしれません。堂々巡りに頭がくらくらしてきたのも藝大のなせる技です。 

 

ようやく上野公園の広場が見えてきました。紅白のテントが立ち並び、愉快な音楽が聞こえてきました。

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入り口には「コモゴモ展」東京藝術大学後援アートマーケットとあります。

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KOMOGOMO展は、東京藝術大学出身の若手アーチストが主催する下維持湯津作品を発表・展示・販売するアートイベントです。

ameblo.jp

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楽器にあわせて即興でなにやら描いている人がいます。情感あふれるメロディはプロの腕前。学園祭でホールのチケットが早々と売りきれるのもよくわかります。

今年で11回目を迎えるイベントは、10月15日(土)16日(日)にも開催されるようです*2。街の路上で販売している得体の知れないアートと違って、藝大生がこうして画材を買う資金を集めているのだと思うと、つい応援したくなります。

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未来の画家の似顔絵サービス

こちらは小さな女の子を前に似顔絵を描く女性。輪郭線やアタリをとることなしに人物の表情が紙面に浮かび上がっていく様は、デッサンの千本ノックを浴びてきた絵描きさんの技術力を感じます。

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平均相場はというと、1枚千円。将来の油絵画伯や日本画の大家(かもしれない)が描いてくれた自画像は先行投資としてはわるくありません。

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超カワイイ銀細工

ブースの若者に聞くと、書籍「東京藝大」のことを知っている人は5人中2人いました。6割の人は本を読んでいないことがわかります。

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木工職人ビックリのインテリア

さらに聞くと、出品者はOBが中心だが、現役の藝大生もお手伝いのためにかり出されるのだそうです。

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使うのがもったいなくなる台所用品

目をひいたのが、鉄板の素材から鉄鍋を鍛造する過程を紹介しながら、商品をさばいていたこのコーナー。

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鍋の取っ手を手に取ると、ずっしり重く、料理を作るのはもったいない気分になります。

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お値段はというと、

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すっかりファンになってしまいました。ニッポンのコンテンツを支えるのは君たちだ。(すなおに応援)

 

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*1:9/2(金) ・9/3(土)・9/4(日)に実施された

*2:この日は10月1日

最後の秘境に行ってきた

ノンフィクション「最後の秘境東京藝大」二宮敦人著(新潮社)を読んでいたら、急に興味がわきあがり、上野にある東京藝術大学に行って見ることにしました。

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藝大の入試倍率は東大の3倍。80人の枠を約1,500人が奪い合う狭き門なのだそうです。音楽系の学生は2~3歳のころからピアノを習い、美大系の学生は、受験前の実技指導を受けに遠路はるばる芸大まで通学する。超人たちの集まる場所なのです。

凡人シャットアウト。敷居が超高いエリート大学だろうと、あきらめていましたが、美術系の建物が並ぶ「美校」には誰でも入れる門が開かれていました。この先(窓のあるところ)には、大学美術館があります。展覧会を見に行けばついでに中をのぞくことが出来るのです。

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ひととおり展示を見ると関連グッズを売る売店があります。お洒落なカフェも併設されています。出口に向かう階段を降りた一階に併設された「大浦食堂」は学生食堂です。展覧会を見に来た一般の人も利用できますと書いてあります。残念ながら、土曜日だったため入れませんでした。

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藝大は上野の森の端にあります。美術館を出たところに看板がありました。中央棟のそばに今いるようです。

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まんなかの車通りを境に左側に”音校”と呼ばれる音楽系敷地があり、美術系の右の敷地つまり美校に完全に分断されています。藝大の学生はハイソな装いの音大生と、得体の知れない風貌の美大生に分かれているので誰が見たも判別できると本にありました。差別といわず区別というのでしょう。

美校のさらに右は、本にも書かれていた「学生が絵画棟からペンギンを一本釣りした*1」都市伝説が残る上野動物園です。

 

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大学構内は森の中にあります。鬱蒼とした緑が目にしみます。掲示板には大学らしく、アルバイト求人の案内が目に付きます。芸大生は音楽では楽器代、美術では絵の具代などでともにお金に苦労する学生生活を送ると、本に書いてありました。

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さらに緑を分け入ると突然視界が広がりました。行く手を遮るのは丸太の山です。都会とは思えないような光景です。林業で生きる村の世界に迷い込んでしまった気分になります。

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野ざらしになったようにうち捨てられてような丸太の山は、彫刻科の資材置き場のようです。書籍によると、どこぞの神社のご神木が大人の事情で切り倒されることがあり、処分に困って藝大にただ同然で引き取られることもあるようです。そういう目で見るとこの丸太ロー公とハイパフォーマンスな材料ともいえそうです。

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美校では、体の汚れは避けて通れない。油絵では大きなキャンバスに筆で塗りたくる。彫刻では巨大な木や石を削る。美術は肉体労働だと描いてあったのが納得できます。

削り取られた端材は塵同然ですが、それを才能ある学生がちょちょいと加工しただけで立派なアクセサリーに早変わり。

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油絵や日本画などで学ぶ学生にとっては「彫刻や金属加工など重いものを扱う学部の学生は友達にしておくと頼りになる存在なのだ」と本にありました。重い石を運んだり、ノミや金槌で叩いたりするのが日課の学生他との存在も、この風景を見ると理解できます。

活字で知識を広げるのは大切なことですが、実際に現場に立ち自分の目で確かめると、頭の中に描いていたイメージが打ち壊される感覚がさらに心地よく感じられます。自分の体を通して本書を再読するとまた違った世界が見えてくるかもしれません。

▲後編に続く▲

 

tanazashi.hatenablog.com

 

 

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最後の秘境 東京藝大:天才たちのカオスな日常

最後の秘境 東京藝大:天才たちのカオスな日常

 

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*1:本書によると、ある日上野動物園でペンギンが一頭死んでしまい、ひとりの学生が死体をもらい受け、一時的に染色専攻の冷蔵庫に保管したところ、それを知らない教授が冷蔵庫を開け大騒ぎになったというのが真相らしい