文庫・新書部門の首位に立つのが「ペテロの葬列」宮部みゆき 著(文藝春秋)です。
「皆さん、お静かに。動かないでください」。拳銃を持った、丁寧な口調の老人が企てたバスジャック。乗客の一人に、杉村三郎がいた。呆気なく解決したと思われたその事件は、しかし、日本社会のそして人間の心に潜む巨大な闇への入り口にすぎなかった。連続ドラマ化もされた、『誰か』『名もなき毒』に続く杉村シリーズ第3作。
宮部みゆき氏は、時代小説など何でも書ける作家産ですが、やはりミステリーが一番お客さんを呼ぶ代フナ気がします。書店員が喜んだのは表紙デザインです。「ペテロ」「の葬列」とタイトルを真ん中で分断する”掟破り”の配列と、合体してはじめて世界感が広がる左右見開きとの思い切ったデザインが光ります。
最近はどの書店でも平台に表紙を前に向けてピラミッド状に積み上げる見せ方をしていますが、こうしたデザインが一番安定度があるように見えます。
デザインは大久保明子氏。文藝春秋のデザイン部に所属している大久保氏がこれまでに装丁を担当した本の数はおよそ1,000冊にものぼるそうです。村上春樹さんの小説「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」も大久保氏の装丁です。
年間60冊の本の装丁を手がけている大久保さんは、仕事に着手する前にかならず「今回はイラストレーターさんにお願いするか、写真家さんにお願いするか、それとも文字だけでいくか、何かありますか」というのをまず聞いて、それで、編集者が「絵でいきたい」としたら、その絵を「誰に頼むか」っていうのを考えながら原稿を読むのだそうです。
「紙の本を『いいな』と思ってもらいたい。そのためにはどうすればいいか、いつもベストを尽くしています」
いちばん目立つ表紙をつくる重要なポジションの仕事をしながらも、その存在を知る人は少ない。ものづくりの現場は人でつながっているのでしょう。