チャーミングな装丁にひかれて「ニコニコ学会βのつくりかた」を手に入れてしまいました。
ニコニコ学会βを支えるテーマは「共通善」。「大きな一つの目的に向かって異質な才能が集結するところに意義がある」と著者は語ります。
異質な才能が集結し、あたらしいものを生み出すためには、環境作りが欠かせません。期間限定イベントの総括としてまとめられた本です。「学会」というタイトルから、研究発表最前線といった難しい内容を予想したのですが、中味はほとんどイベント運営の方法論に費やされています。
ニコニコ学会βのつくりかた―共創するイベントから未来のコミュニティへ
- 作者: 江渡浩一郎,くとの,富野由悠季,瀬名秀明,メレ山メレ子,辻順平,高井浩司
- 出版社/メーカー: フィルムアート社
- 発売日: 2016/05/13
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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舞台でたとえるなら、役者さんの名演ではなく、役者さんにいかに気持ちよく演じてもら環境を作るかという黒子の世界にスポットライトを当てたような内容。後方支援の記録です。したがって、番組制作やイベントコーディネートのをめざす人にはわかりやすい手引き書かもしれません。
研究者のみなさんはテーマを垂直に掘り進むのが使命です。したがって異なる分野の人同士が語り合うイベントプロデュースはやや苦手のようです。その苦手な部分に光を当て次の世代につなぐという意識が、目次から読み取れます。
放送番組の制作も同様です。どんなことにもいえるのですが、理想を高く掲げることは大切です。しかし、理想を実現するためにはプロセスが重要で、しっかりした裏方が計画的にものごとを奨めていかないと、中身がしっかり詰まった理想は実現しません。
このあたりのところを、ニコニコ学会βの実務担当者が丁寧になぞりながらプログラムの作り方が大変実践的に書かれています。たとえば・・
香盤表をつくる
「香盤表*1」といってすぐわかる人は多くないかもしれない。これは放送業界などで使われる表で、当日のステージまわりの人の動きがすべて1枚の表として分単位で書かれた表だ。シンポジウムの準備のうち、ステージ上での動きはすべてこの1枚の表に集約する。逆に言えば、香盤表をつくるためのデータを集めることがステージ準備なのである。(p124)
放送局員に成り立てのころ、先輩ディレクターに「美しい進行表を作れるようになることが一人前の条件だ」と言われたことを思い出しました。番組の中身は当然重要ですが、出演者やスタッフの時間をムダにした番組は褒められません。ムダをそぎ落とした進行表(香盤表といういい方はドラマなどの芸能系で使われていました)を作ることは自分の頭を整理することでもあり、番組の質を高めることにもつながるのです。
個人個人の知を集合して新しいものを生み出すためには、運営のスキルが欠かせません。これまでプロが担っていた運営のスキルを、普通の人たちが自由に使いこなすことができればステキなコトだと思います。
これから裏方を担う人には読んでもらいたい本といえます。
ニコニコ学会βのつくりかた [ 江渡浩一郎 ]
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