少し早めに退社して神保町へ向かいました。
松尾芭蕉、与謝蕪村、小林一茶という3人の巨匠の魅力的な句を、松浦寿輝、辻原登、長谷川櫂という読み巧者が今の視点で読み解くトークイベントです。
俳句にはまったく関心がなかったのですが、内外の古典を現代語訳で蘇らせようという池澤夏樹の日本文学全集関連の企画であること。入場料500円であることなど、総合的に見て「お得」な企画と踏みました。SEALDsは早々と満員御礼というところが今日的ですね。
会場は80人強の入り。平均年齢は60代というのはテーマが俳句だから仕方がないのかもしれませんが、みなさんの目には大学生のような若い輝きが感じられます。
・松浦寿輝氏は、蕪村が得意なのだが、辻原氏が蕪村を担当することもあり、芭蕉を担当した。「古池~」の解釈は膨大な論考があるのだが、飛び込んだ音の後に広がる静寂の視点で鑑賞できるし、古池の意味を、内外の古典を読み込んだ芭蕉の知識に当てはめると、古典の世界に飛び込んだ後に広がる無の世界を感じ取ることができる。
・辻原登氏は、俳句に精通しているわけではないので軽々に触れない。そのため蕪村の季語に注目して春夏秋冬にならべた。しかしそのままでは着地できないので春を着地点に持ってきた上で中間の夏にアクセントを置いた。蕪村は活字だけではなくビジュアルな才能も持つ人で、句の中にも映像の視点を持ち込んだ。例えば蕪村が62歳の時に作った「五月雨や大河を前に家二軒 (さみだれや たいがをまえに いえにけん)」大河という文字に注目。「五月雨をあつめて早し最上川」との違いに大河という表意文字に視覚を持ち込んだ蕪村の新しさがある。
・長谷川櫂氏は古典にはいっさい関心を持たない一茶に現代人につながる精神を発見。一茶の時代には印刷媒体も世の中に普及し、そうした社会のなかで評価された一茶像に注目。相続をめぐる金銭感覚に一茶の人物像が読み取れる。芭蕉は旅の途中で没したが本当は西国まで旅したかったはずだ。
スリリングな話がバンバン飛び出し、あっという間の90分でした。活字にならない著者の肉声を聞くと刺激的です。ボケかけた頭も若返るような気がします。6階に集会室のある老舗・東京堂でなければできない企画かもしれません。