2016私の三冊
1「一瞬の雲の切れ間に」砂田麻美 著(講談社)
「人間は何かを抱きしめていないと生きていけない。マミさん、そういうことですね --スタジオジブリ 鈴木敏夫」
ある偶然が引き起こした痛ましい死亡事故。
突然の悲劇に翻弄される人間模様を、映画『エンディングノート』『夢と狂気の王国』でその才能を高く評価された著者が、独自の視点から描きだした五篇の連作短編集。生の不確かさ、苦しみ、それ故の煌きを、日常の平穏から深く抉りだす驚きの筆力。映画だけにとどまらない才能を、ぜひその目でお確かめください。
2「蓮の数式」遠田潤子 著(中央公論新社)
35歳のそろばん塾講師・千穂は不妊治療を始めて10年。夫と義母からの度重なる嫌味に耐え続けてきた。 ある日、夫の運転する車がひとりの男と接触してしまう。「金で解決しろ」と事故の処理を夫から押し付けられた千穂は、男の不可解な行動を見てディスカリキュリア(算数障害)なのではないかと気づく。 過去に、そろばん塾に通っていたディスカリキュリアの少女を助けられなかった経験があり、男の苦悩を理解し手をさしのべようとする千穂。 だが、その行動を訝しみ嫉妬する夫は、異常な行動に出て千穂を追い詰める。これまで抑えてきた感情を一気に爆発させた千穂は、ある事件を引き起こしてしまうのだった――。 愛を知らない男と愛を忘れてしまった女の逃避行がはじまる! 文芸評論家たちから絶賛の気鋭が放つ最新長篇。
不思議な小説。内容を要約できない。熱い小説。
3「フリー! 」岡部えつ 著(双葉社)
緑川千春は食品メーカーの子会社の広告代理店に働く37歳。
職場においても恋愛関係においても、心をすり減らされる日々に、疲れはもう限界だ。
かつての恋人が教えてくれた、千春のとっておきの癒し場所、日本酒バー『drop』。
ここで出会った人々との交流の中で、千春は新しい道を探し、進んでいく。
連続ドラマ化した『残花繚乱』の著者が、自活する女性の苦悩、決断、努力、
それに伴う内面の葛藤を丹念に掬いとった長編小説。
この手の話は巷にあふれているが、それでもここまで読ませるのは細部がいいからだ。傑作まであと一歩。