ノンフィクション「最後の秘境東京藝大」二宮敦人著(新潮社)を読んでいたら、急に興味がわきあがり、上野にある東京藝術大学に行って見ることにしました。
藝大の入試倍率は東大の3倍。80人の枠を約1,500人が奪い合う狭き門なのだそうです。音楽系の学生は2~3歳のころからピアノを習い、美大系の学生は、受験前の実技指導を受けに遠路はるばる芸大まで通学する。超人たちの集まる場所なのです。
凡人シャットアウト。敷居が超高いエリート大学だろうと、あきらめていましたが、美術系の建物が並ぶ「美校」には誰でも入れる門が開かれていました。この先(窓のあるところ)には、大学美術館があります。展覧会を見に行けばついでに中をのぞくことが出来るのです。
ひととおり展示を見ると関連グッズを売る売店があります。お洒落なカフェも併設されています。出口に向かう階段を降りた一階に併設された「大浦食堂」は学生食堂です。展覧会を見に来た一般の人も利用できますと書いてあります。残念ながら、土曜日だったため入れませんでした。
藝大は上野の森の端にあります。美術館を出たところに看板がありました。中央棟のそばに今いるようです。
まんなかの車通りを境に左側に”音校”と呼ばれる音楽系敷地があり、美術系の右の敷地つまり美校に完全に分断されています。藝大の学生はハイソな装いの音大生と、得体の知れない風貌の美大生に分かれているので誰が見たも判別できると本にありました。差別といわず区別というのでしょう。
美校のさらに右は、本にも書かれていた「学生が絵画棟からペンギンを一本釣りした*1」都市伝説が残る上野動物園です。
大学構内は森の中にあります。鬱蒼とした緑が目にしみます。掲示板には大学らしく、アルバイト求人の案内が目に付きます。芸大生は音楽では楽器代、美術では絵の具代などでともにお金に苦労する学生生活を送ると、本に書いてありました。
さらに緑を分け入ると突然視界が広がりました。行く手を遮るのは丸太の山です。都会とは思えないような光景です。林業で生きる村の世界に迷い込んでしまった気分になります。
野ざらしになったようにうち捨てられてような丸太の山は、彫刻科の資材置き場のようです。書籍によると、どこぞの神社のご神木が大人の事情で切り倒されることがあり、処分に困って藝大にただ同然で引き取られることもあるようです。そういう目で見るとこの丸太ロー公とハイパフォーマンスな材料ともいえそうです。
美校では、体の汚れは避けて通れない。油絵では大きなキャンバスに筆で塗りたくる。彫刻では巨大な木や石を削る。美術は肉体労働だと描いてあったのが納得できます。
削り取られた端材は塵同然ですが、それを才能ある学生がちょちょいと加工しただけで立派なアクセサリーに早変わり。
油絵や日本画などで学ぶ学生にとっては「彫刻や金属加工など重いものを扱う学部の学生は友達にしておくと頼りになる存在なのだ」と本にありました。重い石を運んだり、ノミや金槌で叩いたりするのが日課の学生他との存在も、この風景を見ると理解できます。
活字で知識を広げるのは大切なことですが、実際に現場に立ち自分の目で確かめると、頭の中に描いていたイメージが打ち壊される感覚がさらに心地よく感じられます。自分の体を通して本書を再読するとまた違った世界が見えてくるかもしれません。
▲後編に続く▲
最後の秘境 東京藝大 [ 二宮 敦人 ]
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