本屋は燃えているか

ブックストアの定点観測

週間ベスト10 2017.07.18

ランキングです。 

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東京堂書店神田神保町店調べ(7月18日)

 

1「ランチパスポート 神保町・お茶の水」(DRCマーケティング

 

2「〈淫靡さ〉について (はとり文庫 5) 」工藤庸子 著(羽鳥書店

三島由紀夫賞受賞『伯爵夫人』の衝撃から1年──。"作者"と、『論集 蓮實重彥』の編者が織りなす対談集。2016年7月と12月に、工藤庸子編『論集 蓮實重彥』(羽鳥書店)と工藤庸子『評伝 スタール夫人と近代ヨーロッパ』(東京大学出版会)の刊行記念として行われた二つの対談。ともにフランス文学研究の第一線にあり元同僚でもある二人が、女性・フィクション・大学を軸に、近代から現代を縦横に語る。工藤庸子渾身の書下ろし『伯爵夫人』論も収録。

 

〈淫靡さ〉について (はとり文庫 5)

〈淫靡さ〉について (はとり文庫 5)

 

 

3「蔵書一代―なぜ蔵書は増え、そして散逸するのか」紀田順一郎 著(松籟社

やむをえない事情から3万冊超の蔵書を手放した著者。自らの半身をもぎとられたような痛恨の蔵書処分を契機に、「蔵書とは何か」という命題に改めて取り組んだ。近代日本の出版史・読書文化を振り返りながら、「蔵書」の意義と可能性、その限界を探る。

蔵書一代―なぜ蔵書は増え、そして散逸するのか
 

 

4「ずんがずんが〈2〉―椎名誠自走式マガジン」ずんがずんが編集部 編(本の雑誌社) 

ずんがずんが〈2〉―椎名誠自走式マガジン

ずんがずんが〈2〉―椎名誠自走式マガジン

 

 

5「ボクたちはみんな大人になれなかった」燃え殻 著(新潮社)

 

あの頃の恋人より、好きな人に会えましたか?
糸井重里大根仁小沢一敬堀江貴文会田誠樋口毅宏二村ヒトシ、せつな痛さに悶絶!web連載中からアクセス殺到の異色ラブストーリー、待望の書籍化。

ボクたちはみんな大人になれなかった

ボクたちはみんな大人になれなかった

 

 

6「楽天の日々古井由吉 著(キノブックス)

恐怖が実相であり、平穏は有難い仮象にすぎない。現代日本最高峰の作家による、百余篇収録の最新エッセイ集。短篇小説「平成紀行」を併録。

楽天の日々

楽天の日々

 

 

7「日常学事始」荻原魚雷 著(本の雑誌社) 

ここちよい日常って何だろう?東京・高円寺暮らしのライターが自らの経験をもとに綴る、衣食住のちょっとしたコツとたのしみ。怠け者のための快適生活コラム集。豆腐を使う「かさ増しレシピ」、賞味期限と食品の保存法あれこれ、洗濯ネットの効用、換気と健康の深い関係、日当たり優先の部屋選び…ひとり暮らしの若者たちに伝えたい衣食住のABC。お金はないけど、無理せずのんびり生きていく。

日常学事始

日常学事始

 

 

8「「男はつらいよ」を旅する」川本三郎 著(新潮社) 

西行種田山頭火のように放浪者であり、鴨長明や尾崎放哉や永井荷風のように単独者であった車寅次郎。すぐ恋に落ち、奮闘努力するもズッコケ続きで、高倉健の演じる役とは対照的な男―。なぜ、彼はかくも日本人を惹きつけるのか?リアルタイムで「男はつらいよ」全作品を見続けた著者もまた旅に出て、現代ニッポンのすみずみで見つけたものとは。寅さんの跡を辿って“失われた日本”を描き出すシネマ紀行文。 

「男はつらいよ」を旅する (新潮選書)

「男はつらいよ」を旅する (新潮選書)

 

 

9「今日はヒョウ柄を着る日」星野博美 著(岩波書店) 

『みんな彗星を見ていた』『コンニャク屋漂流記』『島へ免許を取りに行く』『転がる香港に苔は生えない』の人気作家が新境地をひらく、最新エッセイ集。戸越銀座のお年寄りがまとうヒョウ柄の存在に気づき、人間界―動物界のハイブリッド性に敏感になった著者は、いつしか若い世代―お年寄り、記憶―真実、現世―あの世などの境界線上を旅し始めていた……。 

今日はヒョウ柄を着る日

今日はヒョウ柄を着る日

 

 

10「老い荷風川本三郎 著(白水社

第一人者の視点と筆さばき。『〓(ぼく)東綺譚』以降の作品と生活を中心に、老いを生きる孤独な姿を描く。

老いの荷風

老いの荷風

 

表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬

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「表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬」若林正恭 著(KADOKAWA

読者の共感を呼んだ前作「社会人大学人見知り学部 卒業見込」を出発点に、新たな思考へと旅立ったオードリー若林の新境地!

キューバはよかった。そんな旅エッセイでは終わらない、間違いなく若林節を楽しんでもらえる、そして最後はホロリと泣ける、待望の書き下ろしエッセイです。

「俺は5冊くらいタイトル買いして、50ページくらい読んでつまんなかったら捨てる、っていうのを繰り返してて。新書のコーナーが好きで、タイトルをダーッて読んでいくと、まさに今知りたいってことがタイトルでドンってくるときがあって」

オードリー若林さんの話を聞くと、この人もまた、呼吸のように本を読まないと生きてゆけない人なのだということがわかります。周囲に同調しながら生きているのが普通の私たちであるなら、多分若林さんは世間の常識や評判から自分が剥離していることを自覚しているのでしょう。読みながら自分の位置を確認しているのだと思います。

表現することは裏返すと自分を探すことです。社会生活の中でくすぶっている気持ちや折り合いがつけられない思いと向き合わざるをえない仕事です。立場は違いますが放送局員の中にも自分探しを続ける人はいて、そんな人に若林さんの"まじめな"著作は刺さるように思えます。 

表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬

表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬

 

 

珍しい日記

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「珍しい日記」田中珍彦*1 著(木楽舎

世界初、門外不出のドイツの至宝バイロイト祝祭劇場を、そっくり日本に引っ越しさせた、苦難と痛快の実録奮戦記。1989年9月3日、東急文化村グランドオープン。柿落としを飾る、ワーグナーのオペラ・タンホイザーが遂に実現した。そして渋谷は、文化村になった。この日記には、グローバル社会に役立つ外国人との交渉術の見本がある。

月刊『ソトコト』を発行する木楽舎は「持続可能な社会のあり方を追求するライフスタイルを目指す」というビジョンが立っている出版社です。どちらかというと自然志向であり環境志向の流れを感じます。その出版社が目をつけたのが若者の街・渋谷。センター街に代表される消費志向の街に同居する文化の拠点「東急文化村」の仕掛け人の本を出しました。変化を遂げつつある街の未来を考えるとき、開くと楽しい本といえそうです。 

珍しい日記

珍しい日記

 

 

*1:(たなか・うずひこ) 1940年生まれ、東京都出身。1965年、早稲田大学第一文学部卒業。1974年、株式会社東急エージェンシー入社。1984年、株式会社東急百貨店に転籍し、Bunkamuraの開発計画からかかわる。1988年、株式会社東急文化村の設立と同時に取締役に就任。オーケストラや劇団とフランチャイズ契約を結び、お互いの特性や魅力を最大限に生かす「フランチャイズシステム」、企業が文化・芸術を長期的に支援・育成する日本初の「オフィシャルサプライヤーシステム」、文化・芸術の各界の第一線で活躍する方々が企画・運営に加わるプロジェクト「プロデューサーズ・オフィス」などを確立。Bunkamuraは1999年度の「メセナ大賞」受賞に輝いた。2007年に同社代表取締役社長に就任。現在は一般社団法人日本クラシック音楽事業協会顧問など兼任。

Mr.トルネード 藤田哲也 世界の空を救った男

佐々木健一ディレクターの本です。

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「Mr.トルネード 藤田哲也 世界の空を救った男」佐々木健一*1 著(文藝春秋 

藤田哲也という天才科学者(1920-1998)がいた。専門は気象学。32歳のとき渡米し、シカゴ大学の教授にまで上り詰め、「Mr.トルネード(竜巻)」と呼ばれた。藤田の人類への最大の功績は、1970年代に続発していた飛行機事故の原因を「ダウンバースト」という気象現象だと突き止め、飛行機事故を激減させたことである。
ダウンバースト」とは、突発的に非常に狭い範囲で生じる下降気流であり、起きる直前でなければ、予測不能である。今日、私たちが安心して飛行機に乗れるのは、彼のおかげなのだ。
だが、この功績は、藤田が活躍したアメリカでは広く知られているが、日本ではほとんど知られていない。それだけではない。藤田がどのような人生を歩んだのかが、わかってきたのは、ここ数年のことだ。
本書の著者・佐々木健一氏は、そんな藤田哲也の人生に強く惹かれ、アメリカ全土、総移動距離3万キロを超える取材を敢行して、その人生を追いかけた。
そして、NHKのテレビ番組「ブレイブ 勇敢なる者」シリーズの第一弾として、藤田の人生を描く「Mr.トルネード」を制作した(2016年5月2日放映)。

http://www.nhk-ed.co.jp/files/5214/9329/9567/docudocu1.jpg
本書は、「ダウンバースト」現象の解明を軸に、番組には収めきれなかった成果を盛り込んで書き上げられた、世界初の藤田哲也の本格的評伝である。

出版物がテレビの企画の母になることは珍しくありません。テレビの放送と出版化が同時進行するとテレビで見て本で深めるという読者にとっての楽しみは増えます。本書は「ドキュメンタリストから異端視される」という異色のディレクター・佐々木健一さんの作品と聞くと放送関係者は手に取らざるを得ません。

bunshun.jp

2016年5月2日に放送された、ブレイブ 勇敢なる者「Mr.トルネード~気象学で世界を救った男~」(NHKエデュケーショナル)は科学ジャーナリスト賞2017に輝いた佳作です。

Mr.トルネード 藤田哲也 世界の空を救った男
 

 

*1:1977年、札幌生まれ。早大卒業後、NHKエデュケーショナル入社。ディレクターとして『ブレイブ 勇敢なる者』「Mr.トルネード」「えん罪弁護士」などの特別番組を企画・制作。NHK以外でも『ヒューマン・コード』(フジテレビ)を企画・制作。『ケンボー先生と山田先生』で第30回ATP賞最優秀賞、第40回放送文化基金賞優秀賞、『哲子の部屋』で第31回ATP賞優秀賞、『Dr.MITSUYA』で米国際フィルム・ビデオ祭 2016ドキュメンタリー部門シルバースクリーン賞、「Mr.トルネード」で科学ジャーナリスト賞2017、「えん罪弁護士」で第54回ギャラクシー賞選奨、第33回ATP賞奨励賞を受賞。『辞書になった男』(文藝春秋)で第62回日本エッセイストクラブ賞を受賞。最新刊は『神は背番号に宿る』(新潮社)、『Mr.トルネード』(文藝春秋)。

スパイ大事典

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「スパイ大事典」ノーマン・ポルマー 著(論創社

本書は日本で初めてのスパイに関する本格的な事典です。 歴史的事件の裏で、秘密裏に暗躍したスパイに関する事項を多数の写真、図版と共に収録。 ●1900以上の項目を50音順に収録! ●国立公文書館、FBI、NSA出典の写真や図版の他、CIA、FBI、KGBなどの組織図も多数併録 ●他に類を見ない、本邦初の本格的なスパイに関する百科事典! ●索引完備

枕になりそうな836ページの分厚い本です。本のサイズと価格もあって、出ても数冊と並べたところ補充することになりました。(「スパイ大作戦」と間違ったのは年配の書店員だけです。)用途も業務用の資料としての動きがほとんどでした。個人で買われる方も時代考証を仕事にする人などの常連さんたちです。

通信傍受法や共謀罪のようなきな臭い動きがある中、「スパイ大事典」という本が発禁にもならず堂々と出回っている日本は、まだ平和な時代なのかもしれません。 

スパイ大事典

スパイ大事典

 

 

新貧乏物語――しのび寄る貧困の現場から

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「新貧乏物語――しのび寄る貧困の現場から」中日新聞社会部 編(明石書店

私たちの社会を確実に蝕み続けている貧困問題。最近大きく取り上げられるようになった子どもの貧困のみならず、あらゆる世代にわたって、貧困に苦しむ人たちが増えている。だが、意外にもその姿はなかなか見えてこない。当事者への取材記事のほか、なぜ貧困問題が起きているのか、その背景を理解するための客観的なデータも加え、いまここにある貧困を描き出す。

他人が自分と同じように見えている限り、貧困は実感しにくい社会問題です。差別を助長する意味ではなく、他者は自分と違う生活や価値観を持っているということがわかってはじめて相手の立場に立って考えることができます。さらにこの問題の根深さを理解するには時間がかかります。日用品を買うにも通帳の残高が頭に浮かぶ。返済のことを考えるなど、本来なら費やす必要がない時間や労力を絡め取られる消耗感は伝わりにくいものがあります。副題にある「しのび寄る」という言葉が示す視点に、貧困を考える鍵があるように思います。手に取る放送局員の姿を見かける本の一つです。 

新貧乏物語――しのび寄る貧困の現場から

新貧乏物語――しのび寄る貧困の現場から

 

 

新きっぷのルール ハンドブック

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新きっぷのルール ハンドブック」土屋武之 著(実業之日本社

営業キロ+換算キロ」は乗車券だけ?特急券は?三セクや私鉄を通過する列車の運賃はどう計算する?旅行途中で列車がトラブル、運転打ち切りになったら?18きっぷで乗れるのはどこ?きっぷは考え方を理解すれば、たちどころにルールもわかる!

切符の旅といえば印象に残るのが、えふぶんの壱という制作プロダクションが企画した番組「列島縦断 鉄道12000キロの旅 〜最長片道切符でゆく42日〜」(2004年放送)です。旅番組のプロが集まった制作会社が総力を挙げた企画で、関口宏さんの息子さんの関口知宏が、一筆書きの鉄道旅に挑んだ番組でした。

その冒頭で、北海道の稚内駅から佐賀県肥前山口駅までJRのみの路線で同じ駅を2度通らずに走り抜ける最長のルートが紹介されていました。*1

当時30歳を超えたばかりの関口さんがへとへとになりながらも、ローカル線を旅する番組は毎日生放送されていました。番組の臨場感もさることながら、鉄道のスケジュールにあわせて中継の設営をする裏方陣の苦労や、ダイヤを守る鉄道技術の水準を実感することができました。

大勢の人を動員し、鉄道側と調整を積み重ねた上につくられたこの企画自体について考えると、切符のルールなど鉄道の情報がまとまっていないことには、成立しなかった番組ではなかったでしょうか。本には驚くようなテレビの企画を生み出す力が潜んでいます。 

新きっぷのルール ハンドブック

新きっぷのルール ハンドブック

 

 

*1:ちなみに、同じ駅を2度通らず、途中下車をしない場合、通ったルートがどれだけ遠回りしても、料金は乗車駅と下車駅を結ぶ最短料金が適用されるというミニ知識はのちに知りました