「「ポスト真実」と対テロ戦争報道――メディアの日米同盟を検証する」永井浩 著(明石書店)
可能な限り事実を伝えることが放送局で働く者の義務であり、使命であることはいうまでもありません。しかし、油断をすると後ろから刺されるようなこともあります。「政府が右ということを左というわけにはいかない」と発言したNHK会長の見識は自傷行為といわざるを得ません。こうした風潮はじわじわと世の中を蝕んでいるというのが、「ポスト真実」をめぐる諸問題なのだと思います。
ところが、この「事実軽視」という事態は、今や日本だけの問題でもないらしい。オックスフォード出版局が、2016年に最も注目された言葉として挙げたのが「Post-truth (ポスト・トゥルース)(ポスト真実)」であった。これは、客観的な事実よりも、人々の感情や主観の方が、世論の形成に大きな役割を果たす政治状況のことを意味する。英国が欧州連合(EU)離脱を決めたことや、事実でないことを盛んにツイートしたトランプ陣営の勝利の背景には、この共通の状況があるというのだ。