「サトコとナダ」ユペチカ 著(星海社)
基本的人権を認めることは、他人の無作法な振る舞いにも腹を立てずに受任することだ。
極端な例ですが、いつも心の中に持っておきたいコンパスのような視点です。
日本で暮らす私たちにとっては当たり前のこと。例えば夜中に一人で帰宅しても安心だとか。バス停で列を作って順番に乗車するとか、料理店で定食が当たり前のように速攻で出てくるとか。
こんな便利でストレスフリーな生活は等質な日本社会特有のものかもしれません。
だからこそ、違った文化で暮らす人の振る舞いをしっかり観察することが必要なのだと、この本は言っている気がします。
本作はフィクションです。なので、サトコにはもちろん私の視点も反映されていますが、私そのものではないですし、ナダもいろんなイスラム教徒の女の子たちをもとにつくったキャラクターです。私が海外で、イスラム教徒の女の子たちに出会って、自分が持っていたイスラム教徒の方のイメージとまったく違うなと、徐々に気づいていったことがあって。そんな思いをマンガに描いてツイッターに投稿したのが始まりです。
フイクションであっても大切なのは観察力です。真実は事実の積み重ねの上にあるとしたら、正確な事実を観察して描くことが作品を強くするのです。
写実画のように精密な描写であってもいいし、「この世界の片隅に」で描かれたような描き方であっても構いません。
客観的な観察眼で描かれた世界は主義主張で硬直化した批判を乗り越える力を持って読み手の心を揺さぶります。