「「激動の世界をゆく」大越健介取材ノート」大越健介 著(小学館)
あのニュースの舞台裏では、何が起きているのか。そこで生きる人たちは、いったいどんな思いでいるのかを探ってきた「激動の世界をゆく」。時間に制約があるテレビではすべてを語る事はできません。映像化できない情報も含め活字には活字なりの力があります。テレビと比較しながら読みすすめると新たな発券があります。
優れた番組制作者は優れた書き手でもあります。それは取材対象との距離感や関係の結び方がぶれないからです。
「きょう電車で席を譲ったひとが、あしたひとを殺す――それが人間だと思っている」国分拓
著者の生き方に惹かれて買う人がいる本の一つです。
ニュース番組の制作者は、視聴者像を中学1年生に想定しているのだそうです。
専門用語は使わないか、もしくはできるだけ平易な日本語に言い換えているのはそのためです。
それでも世の中の変化は激しく、伝える情報も断片的なものになりがちです。
しかし、平均的なニュースの持ち時間は一分半程度。
当然、基礎的な情報まで説明できる時間はありません。
"中学生にもわかる”という内容をめざしながらも、ニュースがわからない人があらわれるのはニュースの背景にある「なぜ」という疑問に答えきれていないからかも知れません。
「こどもニュース」のキャスターを長らく勤めた池上彰さんは、ニュースに躓く人たちの気持ちをよくわきまえています。
「常識としてあらかじめ知っていてもらわなくては困る」と考えるニュース制作のジレンマを考え抜いてきた経験と自信が、読者の心を鷲づかみしているようです。
外務省のサイト「海外安全ホームページ」は海外取材をする際、まず最初に確認しなくてはならない情報の一つです。
ここには世界各国の治安に関する最新情報がまとまっていて、現地の安全を確認できます。
渡航・滞在にあたって特に注意が必要な場合に発出される情報で、最新の現地治安情勢と安全対策の目安を示す「危険情報」と、限定された期間、場所、事項について安全対策の観点から速報的に発出される「スポット情報」から成ります。
取材計画が承認されるのは「レベル1:十分注意してください。」までです。
レベル2以上になると渡航はほとんど認められません。
テロや治安の悪化といった危険だけでなく、疾病の流行もあります。
海外に行ってみてわかるのは、その土地のもつ危険な匂いです。
日本にもヤバイ場所というのはいくつかありますが、天変地異を除いて、生命の危機を感じる場所はほとんどありません。
しかし海外には危険な雰囲気がごく普通に存在しています。
海外で仕事をするテレビクルーは、基本的に危険な場所で単独行動はしません。
レベル1の条件でも、安全な条件を確保し単独行動は避けます。
クルーは現地事情に精通した取材源を確保し、その情報を元に番組を制作するのです。
放送時間の枠からこぼれ出たヤバイ場所のやりきれない現実が綴られた本。
安全な日本の視聴者に伝えたい想いが閉じ込められています。