文庫部門のベスト1位に躍り出たのがこの本。
直心影流の達人坂崎磐音の嫡子空也は十六歳で武者修行の旅に出た。向かったのは他国者を受け入れない“異国”薩摩。そこに待ち受けるのは精霊棲まう山嶺と、国境を支配する無法集団の外城衆徒。空也は名を捨て、己に無言の行を課して薩摩国境を目指す。出会い、試練、宿敵との戦い…若武者の成長を描いた著者渾身の青春時代小説が登場。
著者の佐伯泰英さんは、文庫書き下ろし時代小説一本に絞ると宣言したことで知られる人気時代小説作家です。居眠り磐音 江戸双紙シリーズがNHKの木曜時代劇で、鎌倉河岸捕物控シリーズがNHKの土曜時代劇枠でそれぞれ放送されたこともあって、佐伯泰英ファンの放送局員は文庫本シリーズの発売日を首を長くして待ち構えているような気がします。
小説の世界では根強い人気を見せつける時代劇ですが、テレビの世界では先細り傾向が強まっています。制作関係者に聞くと、時代劇の制作には実に多くの専門集団が関わっているそうで、いったん制作が途切れると培われた技術が消えてしまう恐れもあるのだそうです。
役者さんの剣術の手ほどきをする殺陣師の技術、時代ごとに細かく異なる時代考証、衣装や小道具を担う美術関係の仕事と、時代劇を支えるプロフェッショナルたちは途切れることなく続く仕事を通じて次の世代に継承しているわけなので、読者の心を捉えて放さない物語の描き手の存在は放送にとって必要不可欠な存在といえそうです。