本屋は燃えているか

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路地の子

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「路地の子」上原善広*1 著(新潮社) 

「金さえあれば差別なんてされへんのや! 」
大阪・更池に生まれ育ち、己の才覚だけを信じ、
食肉業で伸し上がった「父」の怒涛の人生。

昭和39年、大阪――「コッテ牛」と呼ばれた突破者、上原龍造は
「天職」に巡りあう。一匹狼ながら、部落解放同盟、右翼、共産党
ヤクザと相まみえる日々。同和利権を取り巻く時代の波に翻弄されつつ、逞しく路地を生き抜いた男の壮絶な半生を、息子である著者が描く異色のノンフィクション。

 今はあまり聞きませんが、かつては日本で一番取材しにくい世界がありました。この本のテーマとなった食肉業界は触れてはならない世界だったことを思い出しました。日米農産物交渉とりわけ牛肉自由化の取材をすすめるにあたり、情報を握るのは大手精肉業者です。しかし、その取材は難航します。利権の実態は差別という分厚いベールで覆われ、誰もその実態に迫れませんでした。他者への不寛容化が進む現代。触れてはならない世界は見えない姿で私たちのそばに佇んでいます。異なる視点から見た事実は様々な気づきを与えてくれます。

路地の子

路地の子

 

 

*1:大阪府出身のノンフィクション作家。被差別部落出身である事をカミングアウトし、部落問題を中心に文筆活動を行っている