本屋は燃えているか

ブックストアの定点観測

金持ち家族、貧乏家族2018 プレジデント

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PRESIDENT (プレジデント) 2018年 3/5号

入社式を控えたこの時期になると、定年退職者向けの出版物が急増します。

年金や雇用、介護などこれまで見えてこなかった課題に直面するのです。

プレジデントもこの時期に合わせて毎年特集する企画が「定年後の生活」です。

タイトルは「金持ち家族、ビンボー家族」という煽るような文言ですが、描いてあることは毎年あまり変わりません。

当然誰もが不安を抱えているわけで、出版社側から見ると格好のターゲットになります。

[パート1] 子育て家計に吉報&凶報! 税制改正の注意点

配偶者控除▼「夫の年収」「妻の勤務先」でこんなに違う
所得控除▼「年収850万円超で妻が専業主婦」は大損
証券税制▼40代なら「つみたてNISA」がおトク!
民法改正▼家を借りる・買うときの新常識
奨学金の拡充▼返済額が軽減される!?
●武内優宏/内田麻由子ほか

[パート2] ますます不安増大、老親リスクと老後マネー
相続改正▼「介護は妻まかせ」が新たな火種!?
年金受給▼「マクロ経済スライド」強化見送りでも……
医療費アップ▼「高額療養費」見直しと自己負担
損害賠償リスク▼老親の車運転が招く代償
タワマン大規模修繕▼積立金不足でスラム化の可能性
失業保険▼知らないと157万円の損

ジャーナルな部分を除き、中身は数年前の特集を焼き直しても通用するないようばかり。それでも定年世代が毎年新しく生まれてくるので、定番のベストセラー企画になってしまうのです。

 

#高野光平「昭和ノスタルジー解体: 「懐かしさ」はどう作られたのか」

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「昭和ノスタルジー解体: 「懐かしさ」はどう作られたのか」高野光平 著(晶文社

 社会学サブカルチャーは素人目に見分けが付きません。

本書は論考の力が強いので、社会学に分類されるのだろうと思って大手書店を回ったら、

社会学の棚にも、サブカルの棚にも置いてありました。

どちらから読んでもためになる本なのでしょう。

著者も「どちらでもいい」と語っていました。

 社会学者のこういうところが好きです。

 

#三戸政和「サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい 人生100年時代の個人M&A入門」

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「サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい 人生100年時代の個人M&A入門」三戸政和 著(講談社

会社員生活を選ばずに、自分の能力で生計を立てる若い世代の活躍が目立ちます。

ということは、中高年だってまだまだやれるかも知れない時代かもしれません。

 

経済産業省によるとこの20年で中小企業の経営者の年齢分布は46歳から66歳へ高齢化しているといいます。オリンピックイヤーの2020年には数十万人とも言われる「団塊世代」の経営者が引退時期を迎えます。

東京商工リサーチによると後継者難などで毎年3万件の企業が休業や廃業、解散しています。

経営者が60歳以上で後継者が決まっていない中小企業は日本企業の三分の一にあたる127万社に達し、事業が続けられず廃業を余儀なくされる企業の半分は黒字企業なのだそうです。(朝日新聞2018年3月22日)

その実体に注目して、実力のある中高年サラリーマンを後継者予備軍として再活用しようというのがこの本の狙いです。

在職する会社では社長になれなかったけど、後継者難で困っている企業の手助けをして資本家になるという一石二鳥。

前途ある青少年ならともかく、一から勉強を始めるには時間の猶予が足りません。

大多数の中高年にしては夢は夢として置いておいた方が良さそうな本かも知れません。

 

ネットメディア「現代ビジネス」に「飲食店経営に手を出したら、その先には『地獄』が待っている」「60過ぎたら、退職金で会社を買いなさい」などをアップ、累計500万超のPVという記録を打ち立てた話題の記事の書籍化です。

 

 

#K.Kajunsky「家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。 よりぬき★月がキレイですね編」

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家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。 よりぬき★月がキレイですね編」K.Kajunsky作 ichida漫画(PHP研究所)

『Yahoo!知恵袋』に投稿された質問とそれをもとにしたブログを漫画化した作品です。

様々な展開をする上で三作目が出版されるということは、営業的に有利です。

当然、映画化されることになりました。オビは映画の宣伝になっています。

誰もが思い当たる日常周辺の出来事を、シッカリ拾い集めるするどい観察眼が光る作品です。

疲れたときや、息抜きに少しめくって楽しみたいという読者層に支えられています。

スマホやウェブで読まずにリアルな本で読みたい読者もかなりの数存在していることがわかります。

 

#花田菜々子「出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと」

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「出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと」花田菜々子*1著(河出書房新社

「人生の成功モデルは旧来型の会社勤めだけではない」。そのことに若い人たちが気付き始めています。

その背景にはAIが象徴する社会の情報化があります。また、働き方改革に象徴される労働のありようや、少子高齢化が国の財政に突きつける経済の課題もあります。ひょっとしたら、今のような形の仕事や会社は10年後にはなくなるかも知れません。職業というものの先行きが見通せなくなっているのです。

新たな世界で自分なりの立ち位置を切り開くには、自分という商品を見つめ直すしかないのです。

個人の価値を自主的に提供すること。自分にしかできないものをつくって差し出すこと。

それに気付いて、動き出す人しかヒーローになれない時代なのかも知れません。

配本された本を売りさばくだけの書店がたちゆかなくなっています。それを絶望とするかチャンスとみるかは自分自身。

『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』というタイトルには新しい時代に向き合う生き方の決意が見えます。

 

 

 

*1:1979年、東京都生まれ。書籍と雑貨の店「ヴィレッジヴァンガード」に12年ほど勤めたのち、「二子玉川蔦屋家電ブックコンシェルジュ、「パン屋の本屋」店長を経て、現在は「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」(2018年3月23日開店予定)の店長を務める。編著書に『まだまだ知らない 夢の本屋ガイド』(朝日出版社)がある。

#荒井紀子「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」

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AI vs. 教科書が読めない子どもたち」荒井紀子 著(東洋経済新報社

AIに仕事を奪われるという不安が広がっています。

誰にでもできる仕事は早晩AI(人工知能)に置き換えられていくという不安です。

しかし、視点を変えると私たちの将来よりも、子どもたちの未来への不安が浮かび上がってきます。

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週刊東洋経済 2018年5/12号の特集は「AI時代に勝つ子・負ける子」

AI時代には、これまでの受験勉強とは違う学びが必要になるようで、

すでに様々な学習サービスが登場してきています。

数学が得意であっても、問題の意味を理解する「読解力」をどう身につけるかが鍵なのだそうです。

国立情報学研究所教授の荒井紀子さんの著書では、リーディングスキルという「読解力」をキーワードに解決の糸口をさぐります。

今後子どもに勉強やプログラミングを教える上でも、まずは親自身が実践して理解している必要があることを再認識させられます。

 

「JAPAN CLASS もうかなわないわ、ニッポン! 」

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「JAPAN CLASS もうかなわないわ、ニッポン!」ジャパンクラス編集部(東邦出版)

嫌韓本や右翼的な本は売れるけど置かない書店があります。

炎上商法は長い目で見て損だからです。

ならば褒めてしまおうという逆転の発想で編集されたのが『JAPAN CLASS~』シリーズの出版物。

外国人がネットに書き込んだ日本に対する褒め言葉を再編集したものです。

「みんなもズルズルッといこうぜ」「地球一難しくね」との表記にあるように、編集方針は日本語を正確に使いこなす読者層に向けられていないこともわかります。

blog.goo.ne.jp

それでも日販のビジネス書ランキング5位に入ったベストセラー。

1回出版すると10万部近く売れる自画自賛本です。