本屋は燃えているか

ブックストアの定点観測

#八木澤高明「ストリップの帝王」

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「ストリップの帝王」八木澤高明 著(KADOKAWA

刃物をもったヤクザと大立ち回り、相手を病院送りにする。警察の手入れに激怒し、腹にダイナマイトを巻いて警察署を襲撃し逮捕。業界のドンとして全国指名手配をされるも逃げ切る等々。このような武勇伝と裏腹に、その男・瀧口義弘は線の細い銀行マンだった。福岡の進学校を卒業後、福岡相互銀行(現・西日本シティ銀行)に勤めていたが、昭和50年にストリッパーとして活躍していた姉に誘われ、その日のうちに辞表を出して劇場に飛び込んだ。以後、彼は帝王としてストリップ業界を差配するまでに上り詰める。15年以上にわたり、日本各地、世界各国の色街を取材し、ストリップ劇場の栄枯盛衰も見てきた著者が描く、悪漢にして好漢の一代記!!

テレビドキュメンタリーの基本は定点観測です。カメラという重くて目立つ機材を使っての取材は、紙とペンが武器の取材と比べ、機動性に欠けるのが理由の一つです。一カ所や一つの対象に寄り添うことで、普段見ることが出来ない風景も見えてくることがあります。

著者の手法も定員観測。日陰を生きざるを得なかった人たちをテーマに選びその姿を描き続けてきました。本作も長年の取材が育んだ人の繋がりからうまれたものと思います。

国際都市として知られる横浜も、伊勢佐木町から数ブロック歩くと昭和の気配が漂う場所に行き着きます。このあたりは著者の生まれ故郷。船上生活者や港湾労働者の姿が多く見られた場所です。

「青線や色街を見れば、日本の歴史も浮かび上がってきます。そこにしがみつくことでしか生きられない人もいる。だからこそ、僕はその時代、場所を知る人たちに会って話を聞き、写真を撮って記録しておくべきだと考えたんです」

10年以上前から紛争地の取材と売春の取材を続けるフォトジャーナリスト・八木澤高明さんは、おそらく幼い頃から港湾労働者たちの生活を身近に見ながら、表現方法を模索してきたのでしょう。

 

取材対象はアウトロー。下手に近づけば取材者であっても身の安全は保障されない相手です。その相手の心を開かせるためには、ひたすら身の上を聞き続けることにつきることが分かります。

放送局員が一目置く気鋭のジャーナリストの最新作です。